二人のクリスマスその2
カジュアルドレスに着替えて二人でホテルのレストランに、フランス料理のコースで本日はクリスマススペシャルディナー
レストランに入ると周りからの視線が突き刺さる。男だってバレないかちょっとドキドキしていたが、その心配は無さそうだ。
店員さん、えっとこういう所だとメートルデイって言うんだっけ? スーツを着た年配のウエイターの人が席まで案内をしてくれる。
「いらっしゃいませ、お飲み物はいかがなさいますか?」
席に着くとソムリエと思われる人がワインリストを持って来る。
「あ、えっとジュースで」
「ええ!」
「駄目だよ」
「ぶう~~」
「すみません未成年なのでオレンジジュース2つで」
「かしこまりました」
ジュースで乾杯が少し不満の天音、いや未成年、それ所か中学生だし。
「凄く良い席だね、夜景が綺麗」
「うん」
ホテルの部屋とはまた違う、横浜の夜景が広がる。凄く綺麗……まるで宝石を散りばめた様なその光輝く町並みに目を奪われる。
そして次々と運ばれてくる料理、食べ方も作法もよく分からない、周りからの視線が気になり味もよく分からない……
「うう、緊張する」
「どうしたの朋ちゃん?」
「なんか注目されて緊張してる……これ、どうやって食べるのかも分からない」
骨付きのスモークターキーが出てきた……どうやって食べるの? 普段なら手に持ってかぶりつくんだけど……
「マナーとかいいんだよどうでも、手で持って食べちゃえ!」
「えええええ、だ、駄目だよ」
「そう? 私は良いのに、まあ皆朋ちゃんを見てるからね」
「見てるのは天音だよ、私は多分……変って思われてる」
ぎこちない動き、どうしても女の子らしく動けない……当たり前だけど、やっぱり天音は女の子、その立ち振舞い、淑やかな動き、私とは雲泥の差だ。
「えーーーー私なんて朋ちゃんち比べたら全然可愛くないよ~~、朋ちゃんは皆のアイドルだもんね」
「その話は止めて~~」
「あはははは」
デザート迄一通り食べゆっくりとコーヒーを飲む、今日はホテルで宿泊だから時間を気にする必要はない……好きな人とクリスマスにホテルでディナーとか……夢のようだ。
「さてと……そろそろ戻る?」
「うん……そうだね……」
さっきまで普通だったのに、突然何かポーーっとしている様な? そんな雰囲気を出し始めた天音……どうしたんだろうか?
レストランを後にしエレベーターで部屋に戻ろうと待っていると、天音が突然手をつないできた……
まあ、別にいつもの事と手を握り返すと、天音の手はいつもと違いしっとりと湿っていた。
手汗? なんだろ? 緊張してる?
「美味しかったね~~」
「……うん」
「景色も部屋と違ってまた良かったね~~」
「……うん……」
エレベーターに乗り込み天音に話しかけるも、うんとしか言わない。
「疲れた? お風呂先に入っちゃいなよ、今日はもう寝よう、明日どうしようか? 疲れてるようだったら観光は中止にして帰っても」
部屋に戻り天音を見ながら明日の提案をする。一応中華街と動物園に行こうかって言ってたけど、いつでも来れるし無理に……
「朋ちゃん……」
「ん?」
「これ……クリスマスプレゼント、ありがとう……」
天音が首に付けているネックレスを持ち上げそういう。
「ううん、そんなに高いものじゃないし、今日の天音の服にぴったりだったし」
「……あのね……私……何も用意してなかったから……」
「ああ、そんな事? 全然気にしなくて」
「あのね……あのね朋ちゃん……私じゃ……私じゃ……駄目かな?」
「え?」
「クリスマス……プレゼント……私じゃ……駄目かな?」
「え、えええええ!」
天音はうつ向きながらそういう、顔を赤らめ恥ずかしそうに……それって……そういう事だよね、え? ええええええ?
「あははは、駄目だよね……私じゃ……私……朋ちゃんより全然可愛くないし、ガリガリで醜いし……あははは、ごめんね……変な事言って、今度何か」
「そんな、そんな事ない!! 天音は、天音は僕の……僕の一番大事な、大事な人なんだ! いる……いるに決まってる。欲しい、欲しいよ、天音が欲しい……全部欲しい……でも……でも……でもぉ……くっ」
なんだ? 嬉しいのに、涙が、涙が出てくる……どんどん溢れて来る……止まらない、嬉しいはずなのに……なぜ?
「え? と、朋ちゃ……ごめん……ごめんね、変な事言って……ごめんねえええええ」
僕につられて天音も泣き出す……子供の様に泣き出してしまった。
違う、違うんだ悲しいからじゃない、でも嬉しいからでも無い、何故か何故か涙が……
「天音……あまねええええええ」
「ともちゃあああああああああん」
僕と天音は抱き合って泣く、ワンワンと二人で泣く。せっかくのクリスマスなのに、付き合って初めてのクリスマスなのに……
暫く二人で泣いていた……暫くして天音は少し落ち着いたのか私に謝りだす。
「ごめんなさいいい、朋ちゃんごべんなざい……変な事を言って」
違う、変な事じゃない、凄く嬉しい事……でも違う、違うんだ……
「ち、違う……違うの……そうじゃないの、天音は悪くない、悪いのは私……、だから泣かないで……ね?」
そう……分かった、何故泣いたか、涙が出たか分かった。
それは……天音はまだ中学生、僕はまだ高1、まだ子供の二人……そして天音の傷は癒えていない……そんな状態で、そんな覚悟で僕は天音を……天音の全てを受け入れる事は出来ないって思ったから。
「私が不甲斐ないせいで、天音の全てを貰う覚悟がない……天音が安心出来る……信用出来る人間じゃないって思ったら、なんだか悲しくなって……」
「そ、そんな事…………」
そう、女装じゃなければ、女の子じゃなければ天音は私と一緒に泊まるなんてしない。僕じゃ……本当の僕じゃ天音はまだ心を完全に開いてはくれない……
多分天音も分かってる。だからあんな事を……無理をして言ったんだと思う。
でも、僕が今夜天音と……そんな事をして、天音の傷が癒えていないのに無理に天音の全てを貰ったとして……それが天音の為になるのか? それ以前に天音の傷が悪化したら、僕はその責任が取れるのか? その覚悟がまだ無い……
こんなにも好きなのに、こんなにも愛しているのに、まだその覚悟が……僕にはない……
「謝るのは私……ごめんね、泣いてごめんね、ありがとう……嬉しい、でも今はまだ……ごめんね」
「ううん……いいの……」
「天音には一杯貰ったよ、今まで一杯貰ったから、それが私にとってのプレゼント、クリスマスだけなんてやだよ、もっともっと欲しい、これからも毎日毎日欲しい……今日は特別な日じゃない、毎日が特別な日。明日も明後日も毎日特別な日。天音から毎日貰える、一緒に居られる、それが天音からのプレゼント、だから……ありがとう、毎日ありがとう」
「…………朋……朋ちゃん、ともちゃあああああああああん」
天音と抱き合いそしてキスをする……ほら、また一つ貰ったよ、今日も天音から貰ったよ。
幸せという名のプレゼントを。
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