温泉旅行 その6


 僕と天音は何度もキスをした、でも恋人同士のキスじゃない……女の子同士でふざけてしているようなキス……でも僕は幸せだった…………今は。


「えへへへへへ、朋ちゃんの唇柔らかい~~、朋ちゃん可愛い~~ねえねえもう一回」


「うん……」

 僕はもう一度もう一度とせがまれる度に天音にキスをする。


「えへへへへへへへへ」


 天音は自分の唇を舌でなめる、そして恥ずかしそうに笑う……少し小悪魔的な天音の表情にドキドキする……可愛い、天音、天音……天音が欲しい……でも……


「じゃあそろそろ寝る?」


「えーーーまだ早いよ~~」


「でも、うーーん何しようか……ゲームセンターはもう閉まってるし、カラオケ?」


「えーーっと、勿体ないからまたお風呂に入ろう!」


「えっと……うん……そうだね……」


「いいの朋ちゃん!」

 天音がびっくりしている、断られると思っていたんだろう、でも断らないよ、だって…………


「うん、いいよ」


 僕と天音は手を繋ぎ脱衣場に行く、お互い背中向きで浴衣を脱ぎバスタオルを身体に巻く、僕も同じように巻く……腰にじゃない、胸に巻く……だって僕はこれから天音の前では女の子になるんだから……


 そう……僕は決心した……天音の前では出来るだけ女の子で居ようって……それは多分僕にとって一番辛い決心だったのかも知れない、男の僕が男を捨てる……誰よりも一番男で居たい相手の前では今後女の子として過ごすと言う事……


 つまり……天音にはこれ以上手を出せない、キスより先は出来ない……だって女同士なんだから……


 それがどのくらい続くか分からない、一生かも知れない……でも、天音が泣くのは嫌だ、もう天音の泣き顔は見たくない……


 今までは、天音の男嫌いを治すって思ってた……でも……僕がそれを出来たのはまだ天音を愛して居なかったから、傷を治すには傷口に触らなければならない、それは天音に痛みを与える、苦痛を伴う……そんなの見たくない。


 だったら痛いのは、苦しむのは…………僕が背負えばいい……だって僕は天音の……お姉さんなんだから。


「わーーやっぱり夜の露天風呂って良いね朋ちゃん」


「そうだね~~」

 僕と天音は湯船に浸かる、お互い向き合ってお互いを見つめる。


「朋ちゃん肌綺麗……」


「天音だって綺麗だよ白いし」


「ただの出不精だし、ずっと家にいたからね……でも朋ちゃんも白いよ」


「私もネトゲばっかりだからね…………ね……リン」

 ネトゲのキャラ名で天音を呼ぶ、思えば僕達は色々な呼び名がある……、天音、リン、妹、朋、朋ちゃん、お兄ちゃん、ルナ、どれも僕達なんだけど、それぞれ意味は違う……


「ルナ……ねえねえそう言えば何でキャラの名前ルナツーにしたの?」


「え?、そうか言わなかったっけ、朋って月が2つじゃない? ルーナ、神話の月の女神の名前でそれが2つでルナツー」

 決して1年戦争動く棺桶製造工場の小惑星じゃないぞ!



「月の女神……そうか……ルナにぴったり、ううんそれ以上……女神二人分……だからルナってそんなに可愛いんだね」


「リンは?」


「天音……天から降って来る音、リンリンリンリンって鈴の音」


「天の音か……可愛いね」


「きっとルナが月から鳴らしているんだよ、その音、ルナがいるから私が居るの……ありがとうルナ……朋ちゃん」


「ううん、私はリンの鈴の音を鳴らす為に居るの、リンの為にこの世に、同じ時代に生まれて来たんだよ、そしてリンと兄妹……姉妹に神様がしてくれたの……生まれて来てくれて、私の前に現れてくれてありがとう、リン……天音」


 僕と天音は見つめあい笑った、そして天音はその後少し淋しそうな顔で言った。


「いいのかな? こんなに幸せで……何か幸せすぎて怖くなってきた……ルナって月の女神何でしょ? 日本だとかぐや姫だよね……いつか月に帰っちゃうんじゃないかなって…………」


 天音は正面から僕の横に移動して、僕の肩に頭を乗せる、天音はそのまま不安そうに僕を見あげる。


「大丈夫、その時は天音も連れていくから、天の音を置いては帰れないでしょ?」

 僕は天音の肩を抱く、スベスベした天音の肩、目の前には天音の胸、バスタオルの下は裸……


 僕はこのままどうにかなってしまいそうになるのをぐっと堪えた……だって僕は今、女の子なんだから……


「うん……そうだね」


 僕と天音は少しぬるめの温泉に二人肩を寄せあいそのまま目を瞑りゆっくりと浸かっていた。

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