温泉旅行 その5


「ごめん、朋……ごめん……」

 僕はそっとベットから降りはだけた浴衣を直し床に正座をして、天音の頭を撫でた。


「ぼ……私こそごめんね……天音……無理してたんだね」

 天音は頑張っていたんだろう、僕と付き合う為に……、男と意識しないように……


「違う! 無理なんかしてない……朋……、お兄ちゃんと一緒にいたいし、キスだって、それ以上の事だってしたい、でも……怖いの、あの時の事を思いだしちゃうの……」


「うん……わかってる……大丈夫」


「お兄ちゃんの事が好きなの、お兄ちゃんを拒絶したくないの、嫌いになりたくないの……」


「うん」


「だから朋ちゃんって……女の子で彼氏って、変だけど思うことにしたの……」


「うん」


「でもそれって朋ちゃんの迷惑に……デートだって周りにバレないようにしなきゃいけないし……」

 天音は起き上がりベットに正座をする、僕は姿勢を正し天音と向き合う、天音がやや上から僕を見下ろしている。


「いいよ……天音の為ならバレたって」


「駄目……朋ちゃんが変な目で見られちゃう、また朋ちゃんが容姿で悩んじゃう」


「天音の為なら何て事はないよ、一生女の子の姿で居てあげる」


「駄目……そんなの……駄目……私が嫌」


「うん……でも無理しなくていいよ、私嬉しいんだから」


「嬉しい?」


 僕は笑った、天音を見て思い切り笑った。



「だってそうじゃない? 天音と付き合えるのって世界で私だけなんだから、生まれて初めて自分で良かったって思えたよ、天音のお陰でこの姿で生まれて来て良かったって初めて思えた、私は天音と付き合う為に、この姿で生まれて来たんだよって思えた」



「朋ちゃん……」


「天音は私を救ってくれた……私の恩人だよ、リンとして私の中身を好きって言ってくれた、そして私の容姿も可愛いって……好きって……」


「ルナ……」


 僕は天音を見つめる……天音の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちている。


 凄く愛しい、天音が愛しい、天音……愛おしい……




「天音……キスしよっか?」


「え?」


「ほら見て、私今女の子だよね、怖くないよね?」


「え……、うん」


「たまにテレビで、女の子同士がちゅってやってるじゃない? あんな感じで」


「でも朋ちゃん……女の子でキスは嫌って……」




 僕はそう言っている天音の唇にかるーく、ちゅっとキスをする。


「………………!」

 瞬時に天音の顔が真っ赤になる。



「ほら、怖くなかったでしょ?」

 僕が笑顔でそう言うと天音はうつ向く、そしてプルプルと震えだした。


「ふうううううううう、と、朋ちゃん…………酷い……」

 天音は顔を上げて僕を見る、そしてさらに泣き出す。


「え?」

 やっぱり怒った? 怖かった? 僕は天音にまた恐怖を与えてしまったのかと思った。


「朋ちゃん……酷い……私……ファーストキスだったのに……一生の思い出なのに…………、今私変な顔してた!」



「えーーーしてないよ、天音凄く可愛いかったよ」



「嘘……だって朋ちゃん今凄く可愛いかった、ずるい朋ちゃん可愛い過ぎる、私ブスだし……」


「そんなことないよ、天音凄く、凄く可愛いよ」




「嘘……」



「ほんとだって」


「本当?」


「うん」





「じゃあ朋ちゃんお願い」


「何?」


「もう一回」

 天音が笑顔で僕にそう言った。



「うん」


 僕と天音は初めてのキスをした……女の子同士だけど、ファーストキスをした。


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