温泉旅行 その7
「良いお湯だったね朋ちゃん」
「うん……気持ち良かった」
僕と天音はお風呂から上がり、和室でくつろいでいた。
「ねえ朋ちゃん、さっきのゲームの何でも言うことを聞く権利が4回残ってるよ、何か私にして欲しい事ある?」
天音がテーブルに肘をつき顎を乗せ僕に聞いてくる。
「何でも……」
僕はそのいたずらっ子な天音の表情にドキドキした、何でも……じゃあ……
「えっとね、じゃあ……手を繋いで、同じベットで、一緒に寝て、一緒に起きてくれる?」
僕は指折り数えて天音に要求する。
「え、そんな事? それってお願いなの?」
「うん仲良く一緒に寝てくれたら嬉しい、そして一緒に起きてくれたらもっと嬉しい」
僕は天音が好きだ、大好きだ……勿論男として……僕は天音が欲しい、全部自分の、自分だけの物にしたい……でも、今は出来ない、天音は今僕の事を女の子として見ている、そして僕はそれに応える事に決めた……だから一緒に寝ても大丈夫、何もしない、出来ない、出来るわけない。
「うん、いいよ朋ちゃん」
そう言うと立ち上がり、僕に手を伸ばす、天音の手は柔らかくヒヤリとした。
手を繋いだまま天音と一緒に寝室に行く、さっきは泣かれた、僕はもう一度やり直しがしたかった。
今度は天音と笑顔でベットの上に……
布団をめくり天音が入る、僕も隣に入る、少し大きめの枕を二人で使う、天音の顔が目に前に……
「可愛いね天音」
「ありがとう……朋ちゃんには負けるけどね」
笑顔でそう答える天音……天音が目を閉じるのを見て、僕も目を閉じた。
繋いだ手から天音の気持ちが伝わる、さっきとは違う安心している気持ちが…………
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翌朝何事も無く二人で起きる、いや、正確に言うと僕は寝れなかったんだけど……
だって浴衣で寝たことある人はわかるよね、真冬なら布団被っちゃうから分からないかもだけど、今は真夏……当然暑くて剥ぐよね、タオルケットをお腹にかけて寝る位じゃない?
天音の乱れた浴衣……目に入るよね、見ちゃうよね……
蛇の生殺し……反対側を向くと、天音の寝息が逆に……
天音の前では出来るだけ女の子でいようと決めたけど、天音の前以外では、寝てる時迄はなりきれない、そもそも僕はそういう趣味とかではない……
「朝ごはん行こう、何か美味しいらしいよここ」
「うんそうだね」
天音と一緒に朝ごはんを食べる、幸せな一時、でも……
昨日の天音の姿が頭を過る、天音の白い裸が瞼に焼き付いている……
僕は男らしく決めたんだ、女の子になるって、そんな感情を持っちゃダメだって
天音の様に可愛い女の子になるって決めたんだ……天音の為に
ご飯を食べ、少し休んでから宿を出る、宿から少し行ったところにロープウェイがあるらしいと言うことで行ってみようという事になった。
揺れるロープウェイにキャアキャア言いながら頂上に到着降りた時点で結構な絶景が見れるが、そこから少し山を昇ると展望台がある、僕達は鬼怒川が一望できる展望台にやってきた。
「うわーーーー凄い~~~」
「ねえねえみてみて天音、あれ泊まってたホテルだよね」
「あーーほんとだ」
「風が気持ちいい」
そこから見える絶景に暫し見とれていると、ふとあることに気が付く
「ねえねえ天音、あのホテルってさ屋上が露天風呂じゃなかったっけ?」
「うん確か」
「ここから見えるよね……」
「うん……でもここまでそんな望遠鏡みたいな物持ってくる人なんて……」
「そこに展望台によくある望遠鏡あるよね……」
「えっと……まあ見えない様になってるんじゃ……」
「ママーお風呂が見えるよーーー」
望遠鏡を見ていた子供が騒いでいる……ヤバイヤバイ聞こえない聞こえない
「とりあえず、夜はロープウェイ止まってるし、昼は清掃中だろうし」
「あははは、私たちお部屋の風呂しか入ってないしね~~」
とりあえず……聞こえないぞ、見てないぞと言うことで隣の猿山に来る。
「きゃあああああ小猿可愛いいいい」
「はい天音餌あげれるって」
「この柄の長いスプーンに乗せるの?」
「直接あげると引っ掻かれるからって」
「へーーー」
天音はそういうと恐る恐る小猿に餌をやっていた。
その後麓迄ロープウェイで戻り駅迄バスに乗り駅前のお土産屋を何軒か周り帰りの電車に乗る。
その間もずっと手は繋ぎっぱなし、天音と僕の手は磁石の様になっていた。
「もうじき夏休み終わっちゃうね」
「うん」
「学校にいる時間、朋ちゃんと一緒に居れないのが寂しいな」
「半年ちょっと経ったら同じ学校だよ」
「うん……でも同じクラスにはなれないからな~~」
「留年しないと無理だよね」
「ダメだよ留年しちゃ」
「あははははは」
隣に座る天音が真剣な顔で僕を見つめる、僕も天音を見つめ返す。
「ねえ朋ちゃん、大好き」
「私も」
僕は天音の手をぎゅっと握ると天音もぎゅっと握り返してくれる……
そうだよ、僕はこれで十分幸せだ、天音の全てが欲しいなんて何を考えていたんだ、天音はまだ中学生だ、しかも心に傷を負っている、僕がその傷を広げる様な事をしちゃいけない、僕は天音の恋人なんだ、そして兄なんだ……いや今日からは姉なんだ、そう決めたんだ……
僕は手を握ったまま目を瞑る、天音と一緒に居れる幸せを味わいながら心地よい電車の揺れを感じながら眠りに落ちる。
「朋ちゃん寝ちゃったの?」
その天音の言葉に返事をする事なく眠りに落ちる
「朋ちゃん…………」
なんて言ったのだろうか……最後の天音の言葉はもう僕の耳には届かなかった。
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