第2話 ざわめく夜
ある日、俺は夕方から閉店後の片付けまでのシフトで渡辺さんと一緒だった。
店長もいたが、バックにある厨房の片付けをしているため表の大概の作業はバイトの俺たちでやっていた。
惣菜を乗せていた皿やショウウィンドウを片付け終え、渡辺さんはレジ閉め、俺はごみ捨てという役割分担になった。
駅ナカ店舗のごみ捨ては少しややこしくて、まずはごみ捨て場の端にある機械で重さを量る。そのあと発行される重量と店名が記載されたシールをごみ袋に貼ってから廃棄する。
「…今日も列になっちゃってるな。」
閉店後だと一台しかないシール機械に列ができていて、並ぶだけでも時間がとられてしまう。シールの発行はそんなに時間がかかるわけでもないが、店舗によっては何袋も捨てるため手間が多い。
「ああ、司さん。お疲れ様です。」
声をかけてきたのは司の向かいにある『和食惣菜・弥生』の店員だ。ちょうど俺の前に並んでいる。
「お疲れ様です。今日もすごい量のごみですね。」
「うどん粉とかが古くなっちゃうと使えないからね。」
弥生は全国チェーン店であり、価格も手頃で帰宅ラッシュの時間にはいつも人混みになっている。イートインスペースもあって、うどんや蕎麦が食べられるので俺も休憩中によく食べに行く。そこの夜シフトでよく会う感じのいいおじさんは、台車いっぱいに袋を積んでいた。
俺がごみ捨てから帰ってくると、すでに渡辺さんは退勤していた。レジ閉めといっても、最終確認と入金は社員がやらないといけない決まりで、俺たちは計算するだけだから誤算がなければすぐ終わるのだ。
俺も特にすることがなければ上がることができるので、バックに入って店長に声をかけた。
店長はちょうどブレーカーの点検を終えたところで、厨房を締めるところだった。
「店長、ごみ捨て行ってきました。」
「小野田くん!ありがとう。もう渡辺くんも上がったし、上がっていいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
俺はそのまま店を出て駅の中にある店舗の全店共通ロッカールームへ向かった。
フロアの端にある従業員用の扉を入り突き当たりを左に曲がって少し行ったところに、男性更衣室と表記されたロッカールームがある。男性ロッカールームはそんなに使う人もいないので部屋の壁に沿って細長いロッカーが並んでいるといういたってシンプルなつくりだ。
俺がロッカールームに入ったとき、バイト終わりらしき若者が2人いるだけだった。
俺の使っているところは、一人ではなく渡辺さんと一緒につかっている。
ロッカーを開けると、渡辺さんの制服が掛かっていた。もう帰ってしまったのだろう。
明日も学校なので俺もささっと着替えてロッカールームから出ることにした。
長い廊下を歩いて従業員口から出ると、そこは商品や雑貨の搬入口で大きなトラックが入ることができる駐車場になっている。
搬入口を抜けて、俺は盛大なため息をついた。やっぱり学校のすぐあとバイトに来ると、一日長いけどあっという間という感じもしてもったいない気持ちになる。
(まあ、特に遊ぶ用事とかもなければ時間もったいないしバイトするのが一番なんだけど…。なんかなー。)
そんなことを考えても仕方ないので頭を切り替えようとしたとき、搬入口をかこっている門の方から声が聞こえてきた。男女の声にきこえる。
俺は立ち止まって、様子をうかがった。早く帰って寝たいのに余計なことに巻き込まれたら面倒だ。
どうやら声の主は門の外にいるようだ。俺は開いた門から顔だけだして回りを見た。
男女は門を出て左側にいた。
「ねえ、聞いてる?」
「うん。」
(なんだ、ただのカップルの会話か。…だけど少し様子がおかしい…なんか、男の声がやけに冷たいというか…)
俺は見物のつもりはなく(自分が帰るタイミングを計るためもあるが)、何だか心配になってもう少し様子を見てみようと思った。
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