第39話 怖いですよ、熱中症

 あまりにも暑いので、夜中にベッドから転げ落ちながら冷房を付けた。

 ま、窓―。ひどく頭が痛む。おかしいなぁ。頭のてっぺん、つむじから、変な汗が出てくる。普段の汗と違って、真水のような汗。

 窓を閉め切り、冷房をパワフルにし、扇風機も直で当たる。

 ようやく体が落ち着いて時計を見る。


「まじか?」


 あまりの暑さに飛び起きたのが一時。そして今、四時になろうとしている。

 記憶がない―。


「それ、熱中症じゃない? 水、飲んだ?」

「買ってたペットボトル、2リットル。空になって床に転がってた」

「無意識で飲んだってこと? 危ないなぁ」

 昨日の夜の出来事を、ファミレスのバイト主婦の鈴木さんに話す。というか、店に入ってきたときから様子がおかしかったらしい。

 寝不足かと聞かれたので、昨日のことを話すと、鈴木さんは眉をひそめて言った。

 なるほど、あれは熱中症というのか。

 と思いながら、食欲もわかなければ、ひどい倦怠感に、椅子に座ったまま中空を眺めていた。

「お前、熱中症になったって?」

 そう言って、店長が近づいてきた。

 時々思うのは、ファミレスの店長がちょくちょく客に話しかけるなど、なんて暇なファミレスなんだろう。それでも心配してくれる数少ない友達ということで、そのようだ。と答えると、店長は眉を寄せて、

「今日は家に帰れって、……工事煩いのか?」

「あぁ、梅雨の晴れ間で、一気に上棟までしたいんじゃないかね、七時半にうちに両隣でやってきて、すみません、早めにはじめていいですかって、すでにトンカントンカンだよ」

 店長はため息をつき、引っ込んだ後、鍵を持ってきた。

「俺の家にいろよ。どうせ、お前、友達いないだろ?」

「彼女に悪いし」

「居たら、言わねぇよ」

 通りがかった鈴木さんも、そうしろというので、ここはありがたくカギを預かって店長の家に向かった。

 素直だなぁ。今日は。と思いながら歩く道が遠い。

 なんだって店長は自分の職場から五分の所に家を借りたのだろう? いや、チェーン店だから、移動になった先が近かったのか? とにかく近所なのだけど、今日はやけに遠く、階段を上がる足も重い。

 部屋に入ってすぐ冷房をつけ、そのまま畳に倒れこんだ。畳がほんのり冷たくて気持ちがいい。

 吐きそうな胸のつっかえと、戻ってきた異常な頭痛。体の、普段とは違う場所から出てくる汗。動悸。

「しんど―」

 言葉すら熱い。

 冷房が効いてきて、すうっと眠りに入った。

 ヒヤッとした感触があったけれど、目は覚めなかった。

 起きたのは、すっかり夜で、ベッドに寝ていた。

 枕元にイオン系のジュースが置かれていたし、額には熱を下げる奴が貼られていた。

「あいつ、いい奥さんになるな」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朱夏のブログ 松浦 由香 @yuka_matuura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ