第36話 一週間後ぐらいに答えが出た話。 後編

 仕事が終わらない―。が、ファミレスで涼みたい。と思って、今日はきた。

 一応、仕事道具は持ってきていたので片付ける。

 涼しいと仕事はかどる。あたしも、集中すれば仕事をこなせるようで、というか、面白そうな話をしている人もいなかった。ので、仕事がはかどった。

 日が長くなり、むしっとしてきたので、本格的な梅雨入りするのだろうと思われた。

 珍しいことだが、早帰りの店長が飲みに誘ってきた。

 家に荷物を置き、近所の居酒屋に行く。

「ウーロンハイと、軟骨つみれ」

 を頼み、隣同士になってまずは手をふく。

 男女の客が入ってきて、一個空けて隣に座った。

 女のほうに見覚えがあった。どこで会っただろうか?

「いろいろとすみませんでした」

 男が切り出した。

「いえいえ、まぁ、彼女にかかわった人すべてが同じことしますよ」

 女はそう言って頼んだレモン酎ハイを口に含んだ。男はビールを何度か喉を鳴らして飲んだ。

「もうね、終わりにしたかったんですよ。ほんと」

「だと思います」

「いろんな人に迷惑かけていたんで、これですっきりします」

「で、彼女はどうしました?」

「ものすごい絶叫ですよ。あぁ、ヤマンバってああいうんだって思いましたね」

 女が笑う。「ヤマンバかぁ、ですね」

「イヤミと結婚する時、ほとんどの女の子が反対したんですよ。やめとけって、きいときゃよかった」

 あたしは男のほうを見た。見て驚いたが、店長に腕を小突かれ届いた軟骨つみれを頬張った。

 あれは、イヤミ、そう、学生時代やたらと嫌味を言う女ボスが居て、彼女をイヤミと言い、その連れをシジュウカラといった、彼女であり、相手は、イヤミの亭主のようだ。

「でも、離婚できるんでしょ?」

「あれだけの証拠がありますしね、弁護士も動いてますしね」

「私もお役に立ててよかったです」

「もし、イヤミから連絡があったら、」

「大丈夫ですよ、彼女、あたしの電話番号も、家も知りませんから」

「え?」

「教えていた番号は使い捨てで、もう使えませんし、もともと家なんか教えていませんから」

 シジュウカラさん、すごい。

「学生時代に、彼女にあたしよく解らないけど、いきなりタカラれたんです。入学した翌日に、まだ弁当もいらないときだったので、お金持って行ってなかったら、使えないって、階段から突き落とされたんです。まぁ、手すりにつかまったんで、二段踏み外しただけですけど、そん時、スカートめくれて、下着丸見えになって、ようやく復讐できました」

「すみません。なんか、」

「いえいえ、私は、彼女にいじめられていた人たちの代表としてお手伝いしただけです。子供が同じ学校に通っているってわかって、あたしのほうが気分悪かったんですけど、あの人、あたしだとまるで分らなくて、気の弱そうな私に目をつけて、やたらとランチしようとかって言ってはお金持ってこなかったりして、相変わらずだわって、」

「あ、ランチ代、」

「大丈夫です。あたし、ここのクーポン持ってて、お金なんか持ってきてないわよって断ってましたから。レジまで、何なら飛んでみようかって、ちょっとやば目な感じで見てたけど、あの人にどう見られても平気なので、知らん顔してましたけどね」

「はぁ」

「大丈夫ですか? ……女怒らせると怖いですよ。でも、イヤミぐらいの女の怨念なんか、たいしたことないですから、あなたは幸せになってくださいね。お子さんと」

「え、えぇ。そうします」

 旦那は黙ってしまった。

 そりゃそうだろう。多分、ここからは推理だけども、シジュウカラさんはイヤミが不倫旅行に行くことを告げたのだろう。そして、不倫しているので証拠をつかんだほうがいいとかアドバイスをしたのだろう。

 おとなしそうな感じなので、旦那さんのほうも、こんなに怖いとは思っていなかったみたいで、その後は静かに一杯を飲み干して出て行った。

「女って、怖いな」

 店長の言葉にあたしは鼻で笑った。

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