第34話 女子会(2)

 その日のお客は非常ににぎやかだった。よく言えば、にぎやか。悪く言えばただただうるさいおばさん連中だった。

 ファミレスのパートの鈴木さんのお姑さんである大家さんたち一行が来ていたのだ。

 大家さんはあたしを見つけ、机の上の紙類を見て、

「まぁ、まぁここで仕事? あ、あぁ。そうかぁ、両隣工事してたっけ? 大変ねぇ」

 と言って立ち去った。

 どうして女というのは成長とともにうるさくなるのだろう??? と、最強進化はたぶん、おばちゃんと言われる部類だろう。そのあとすぐに筋力の衰えとともに終息する。と今までは思っていたけど、そうでもないんだよなぁ。やっぱり、女は、三人寄ればかしましい。というけど、本当に、うるさい。そして、元気だ。

 大家さんたちの今日の会合の目的は句会らしい。句会って、もっと静かな場所でするものじゃないのか? と思ったが、そこらへんはルーズに、お茶しながらするというのが醍醐味のようだ。

「じゃぁ、始めましょうか。お題は初夏。じゃぁ、どうぞ」

 では、と読み手の人が咳払いをする。どうも、書いたやつを一斉に集め、誰の句か解らないようにして評論しあうというものらしい。

「段ボール箱 遠き母より アスパラガス」

「……、荷物が届いたのかしらね?」

「アスパラガスって、初夏の季語?」

「今時分がおいしいからそうじゃない?」

「そうなのね。初めて知ったわ」

「字余りすぎだけど、リズムはいいかもしれないわね」 

「じゃぁ、次」

「散歩道 キラキラ光る 春日傘」

「今の時期まぶしいわよねぇ」

「散歩道とかいうけど、結局、あの農道でしょ?」

 全員が大笑いする。

「こたつ上げ 半年ぶりの 畳色」

「わかるわぁ。なんかごみいっぱい出てくるのよねぇ」

 共感したり、笑ったり、この会のいいところは添削者が居ないところのようだ。ただ好きに詠んで、そして、お互いに褒めすぎず、けなさず、ただただ、詠みあうことが楽しいようだ。

「遠足か 小学生が 列を行く」

「孫がそうだったわ」

「うちも、なんか、お菓子を買ってくれとかいうから、買いに行ったら、買いすぎだって嫁に怒られたわ」

「お宅のお嫁さんは良い人じゃない、うちなんか、もう、何にもしなくて困ってるわよ」

「そんなことないでしょう?」

「それが、全く子育てしないのよ。怒らないし、放任主義っていうの? なんかそんなやつなのよ」

「今の人は解らないわよねぇ」

「放任主義って、虐待してたりするの?」

「あぁ、そうじゃないのよ。だけど、あたしの大事にしている植木の枝折ったのに怒らなくて」

「あぁ、孫が折ったのね? 叱らないの?」

「あたしは目一杯怒ったわよ、でも怒らないから、なんで怒らないんだって聞いたら、お母さんが怒ったでしょ? あたしまで怒ったら、子供の逃げ道無くなるから。だって、どう思う? 悪いことは悪いって叱らなきゃねぇ」

「そうよねぇ」

「でも、最近は叱りすぎると、委縮して、大人になってから祖父母を殺す孫っていうのが増えてきてるわよ」

「あぁ、この前、ニュースになってた。ずっと怒られっぱなしで怖かったけど、やっと反抗したら、おじいさんか、おばあさんかが驚いて、転んだんで、反撃できると思った。ってやつでしょ?」

「いやぁねぇ。怖いわぁ」

 ……一体句会はどこへ行った? と思ったが、そのあとも、近所の誰彼の話しやら、孫の話をしていたが、一番盛り上がったのは、嫁の悪口のようだった。

 嫁に対する不満の多すぎなこと。そのくらいどうってことなかろう。と思えることが列挙していく中で、みんなの口を閉じさせたのが、

「でもいいじゃない。文句言っても、近くにいてくれて。うちなんか、アメリカよ? 文句すらいえない。孫にだって会えない。喧嘩もできない。ほめることもできないんだから。あたしからにしてみれば、みんな、近所に居てくれてありがとうと思うべきよ」

 の一言だった。散々孫や嫁の話を聞かされ、とうとう頭に来たような言い方だった。会いたくても会えない人もいれば、会いたくない人もいる。隣の芝生ほど青々としているものはない。ということなのかもしれない。

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