第32話 泥棒だとぉ?
いい天気で、少し暑いので、ドリンクバーの冷たい炭酸はうれしい。
今日はファミレスで、いつもの作業(笑)。偽教本を取り出し、目下勉強していますフリ。
気になるようなお客が居ないので、どうしようかなぁ。と思っていたら、四人の主婦がやってきた。この前、子供が成人してさみしいと言っていた一団だ。割と頻繁に利用しているようだ。主婦って、金持ってるぅ。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
「いいのいいの、それより大丈夫?」
「まぁ、多分」
「離婚するってメール来たから、もう驚いて」
離婚? 物騒な話だ。
この前、人生の悟りを開いたような人と、アッくんママと、仕事帰りのような化粧が少し崩れた人と、やる気のなさそうな顔をした人。今回はこの人が主役のようだ。
四人はあたしの後ろのボックスに座った。ドリンクバーに近いからね。という理由で座ったので、あたしにしてはありがたい。
「それで、どうしたの? 離婚て、」
「旦那が嫌いになったわけじゃないのよ。姑。あの人には、もう、ほんと」
背中越しでもふつふつとした怒りを感じる。
「どうしたの?」
「結構面倒なお姑さんだよね?」
「家、近所で、毎日覗きに来るんだっけ?」
「最近は子供の手が離れて仕事の延長してるから、来る回数は少なくなったんだけどね、三日ぐらい前かな、夜の八時に電話かかってきて、今すぐ来いっていうのよ。なんだろうって行ってみたら、本がないって」
「本? 何の?」
「パッチワークの本」
「はぁ、で?」
「盗ったのあんた以外考えられない。さっさと出せっていうのよ」
「盗ったの?」
「おいっ。盗るわけないじゃない、私パッチワーク苦手で、基礎中の基礎編の本一冊持ってるけど、もうずいぶん前に買ったやつで、あれ以来作ってないのに」
「裁縫得意でも、パッチワーク苦手なんだ」
「面倒なのよ、細かく切るのも、色を考えるのも、縫うのは好きだから、これを縫えって与えてくれたら作るけど、自分でカットとかするのは嫌」
「なるほどぉ、そういうもんなんだね。それで、なんで本?」
「知らない。全く身に覚えないし、本なんか知らない。って言ったけど、あんた以外誰が読むんだって、お父さんが読むはずないし、やっぱりあんた以外考えられないって。泥棒がって」
「え? 言われたの?」
おっと、泥棒と来ましたか?
「第一、舅さんちに上がることなんかないのに何で盗れるんだって言ったんだけど、いや、絶対あんただっていうから、なんか押しつけがましく持ってきた荷物の中に紛れているかもしれないから探すって、帰ったのよ。で、家さがしたわよ。でも、そもそもどんな本か知らないし、見たことないからあるわけないし。子供たちが興味あるわけじゃないからね。で、散々探してなくて、今朝、やっぱりないけどって言いに行ったら、何の話し? あぁ、あの本ならあったわよ。だって、え? どこにって聞いたら、自分がいつもと違うところに置いてたのを忘れていただけっぽくてね、」
「それで?」
「それだけ」
「それだけ?」
「そう。あぁ、あったんですか? って聞いたら、そうよ。で終わり」
「ん? 謝罪は?」
「ない」
「えぇ??」
「で、旦那にどうよって言ったら、お袋ってあんなもん。で終わり。共感してほしかったのよ。はぁ? 何考えてんだおふくろとか。別に言いに行ってほしいわけじゃないけど、自分の嫁が泥棒扱いされたのに、まぁ、あの母親ならそんなもん。で済まされたの。なんか、もう、イライラが止まらなくて、腹立って、腹立って、それも、今回が初めてじゃないのよ。結婚したての時、はさみがない、あんたどこやったっていうから、知らないって言ったら、勝手に使って元に戻すことも知らないのかって言われて、そしたら、舅が後ろからさっと置いたの。それも何もなし。あぁ、あったわ。で終わり。それがもう、何度も何度もあって、泥棒呼ばわりしておいて、自分のせいって、もう、ほんと、腹立って、」
今にも何か投げるか、わめきそうな勢いだった。
「あ、あぁ? 何やってんだ、お前?」
素っ頓狂な聞き覚えのある声。
あたしは顔を上げてぞっとした。すぐに荷物をまとめ、店を出た。あの話の続きが気になったけれど、会いたくないやつにあったから、逃げた。
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