第31話 親友の結婚
その日は友達と少し離れたカフェで会うことになっていた。最近オープンした店で、そこの記事を書いて欲しいという仕事の依頼もあってこの店にしたのだ。
地元の情報誌の中にカフェ巡りや進展などの利用コラムを載せているので、ちょくちょく出かける。もちろん、カフェに事前に取材アポを入れる。カフェは地元情報誌が月に五軒アポ取りをして、記事の依頼が来るので、その日に出かけるのだ。
「やぁ、元気そうで」
高校の時からの友人で裕子が駐車場にいた。
「遅くなってごめん」
「大丈夫、今来た」
店の外観はかわいらしい印象を得た。白い壁、窓枠は木でできていて、その下に寄せ植えの鉢が置かれていた。今は花がきれいに咲いていて、とても賑やかだった。
入り口を開けると、カラン。と懐かしい喫茶のベルが鳴る。その音にちょっとほくそ笑んでしまう。あたしはこの音が好きだ。
出版社からの依頼でやってきたこと、二、三枚店内の撮影をし、一番奥の席に着く。
おすすめランチメニューを用意してもらうようになっている。
「どう? 仕事?」
「ぼちぼち。店長(ファミレスの店長で、同級生)には、プラプラしてるように見えてるらしくって、職安連れていかれたけどね」
裕子は鼻で笑い、「あいつならしそう」と言った。
裕子はとてもきれいな人だ。友人のあたしが言うとちょっとだろうけど、でも本当にきれいだ。仕事もバリバリこなしている。これで未婚なのは、そのさっぱりしすぎる性格のせいだろうと思う。
「それで、今日はどうしたの?」
裕子が首をかしげ、少し微笑み、
「結婚する」
「お、……おお? おお。おめでとう」
「今、いろいろと言いたいけど、とりあえず祝ってみたか?」
あたしは素直にうなずいた。
「まぁ、一般的に聞かれるであろうことを答えてやろう。どこで知り合ったか、会社の取引先の人。いつからか、半年前。相手の年は、二つ上。で、結婚後はオランダへ行く」
あたしは背もたれに倒れた。
「処理する。しばし待て」
「いいよ」
ランチが運ばれてきた。
ランチはとてもおいしそうで、二、三写真を撮り、一口ずつ食べ、ささっとメモを書いた。
「すまぬ、仕事優先」
「いやいや、時間はたっぷりある」
裕子は優雅に食事をする目の前で、あたしはコラムになりそうなメモを勢いよく書いた。そして、
「オランダ人かい?」
と聞いた。
「おお」
「おおって」
「英語と日本語で会話するよ。日本で仕事してる人だから堪能だしね」
「なるほど。親は?」
「やっと結婚するんだ、大喜びさ。さすがに、高身長の彼を連れて行った時には、首が折れるかと思った。とは言われたかがね」
「身長高いんだ」
「二メートルはないだろうけどね」
「十分。ま、まぁ、裕子が選んだんだから、いい人なんだろう」
「いい人だよ。いい人すぎてイライラするけどね」
あたしが笑う。
「結婚を決めたのはね、あんたが言った言葉を思い出したから。反対されたからって、諦められるなら、そもそも付き合わない。これになるほど。と思ったら、彼のプロポーズを受けていたのさ」
「あの時のあたしには、それにもう少し思慮せよという言葉が必要だったと思うけどね」
「いやいや、この歳で、惚れた腫れたや勢いで結婚はできない。どうしても躊躇してしまう。そんな時に、背中を押してくれたんだよ。怖がっててもしようがないかって」
「で、オランダ。遠いな」
「遠いぞ。おそらく、次は、いつ会えるか解らん」
「そうなるだろうね。向こうでの生活に慣れなきゃいけないだろうし」
「まぁ、あんたには言っておきたかったから」
「そう、ありがとう」
「ご祝儀は五万ほどでいいぞ」
「感動の涙、返せ(笑)」
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