第30話 一週間後に答えが出た話し。前
今日のファミレスの音楽は軽快だわ。ちょっとこじゃれたジャズが流れている。いつだったかは懐かしいJ-popが流れていた。チェーン店で音楽を自由に変えられるのか。と思いながら、今日はいつものカウンターに座る。
昨日の夜コラムにするために記事を印刷してきたので、今日はこれを読まなくてはいけない。
両家の建て替えは基礎に時間がかかっている。ちゃちゃっとできるもんじゃないらしい。大きな重機が入ったので、もう家が建つのかと思ったら、まだ地面が見えている。どうも、あれは地盤調査だったようだ。それから三日ぐらいたつが、一向に工事に着手する気配がない。
まぁ、まだ梅雨入りには時間があるので、雨の心配はないのだろうが、雨が降ったらどうなるんだろうか? さすがに、雨でコンクリとかってまずい気がするが。
「それがさぁ」
ふと耳に入った言葉。これが聞こえてしまうと、とりあえず会話を聞かなきゃいけなくなっている自分が怖い。
「この前危なくて」
「危ないって?」
ドリンクバーにコーヒーを入れに来たらしいので、二人を見る。主婦で、子供はまだ小学生くらいだろうか。未就学児以下のママたちと違うのは、少し母親としてこなれてきた感じがするからだ。
一人はごく普通の主婦で、小ぎれいだが、パート休みの日にやってきたような感じが見えた。なんとなく、生活感を感じる。と言ったほうがいいかも。
もう一人は何だか、どうなんだろう……。いや、居るよ、こういう人。若い格好をする人。でも、この人に生活感を感じないのはなぜだろうか? 派手なネイルのせい? 大ぶりのピアスのせい? 高いヒールのパンプスから見える爪の色のせい? とにかく、この人が既婚者で子供がいるようには見えなかった。容姿は。顔は十分、年を取っている。なんせ、あたしの同級生だった。ただし、向こうはこちらに気づいていないようなので、資料を見るために頭を下げた。
この派手な形の女は、どこにでもいるリーダーになりたいくせにろくな指示をしない子。人からの人望などないくせに、リーダーであれば従えれると信じてその座を譲らなかった子。ここで本名ぶちまけてもよかったが、まぁ、そこは大人なので(苦笑)仮名を使って、イヤミにでもしようか。あたしの性格もなかなか捻くれている。
相手の人は、かわいそうに今の餌食なのかしら? 助けてやりたいけど、イヤミに関わるとろくなことがないので、傍観しておこう。とりあえず。
イヤミの相手なので、シジュウカラさんとでもしようか。(おそ松さんではちょっと女性に失礼かと)
で、二人はあたしの席から遠くはないが、少し会話の聞き取りにくいところに座ったけれど、繁盛期を終えたのと、店内の音楽がインストで、店内が比較的静かだったので、声がよく響いた。ただし、聞こうと意識しなければ、聞こえないと思う。ただ、会話しているのがこの二人だけではあったが、
「ばれそうになったのよ」
「ばれそうって?」
「フ・リ・ン」
「……不倫? してるの?」
「当り前じゃない、あなたもしてるでしょ?」
「してないわよ。旦那に不満はないもの」
「ウソ、マジで? 今ハヤリよ?」
ハヤリだから不倫をしようとする人は少ないと思うぞ。てか、よく、あんたの性格で不倫できたな。というか、見た目は美人だから、見た目だけでは相手は山ほどいるかな?
「別に流行りに乗りたくはないから」
「もう、まじめ」
意味が解らん。この女のこのかなりずれた主観が本当に嫌いだった。イヤミの中にあるのは自分が目立てばいいということだけだったから。あれから随分と経つのに、全く変わらないのか。この女は?
「まぁ、いいわ。お願いがあるのよ」
「お願い?」
「そう、今度ぉ、旅行に行くのね。お土産買ってくるからぁ、あたしと一緒に行くって、旦那に言ってくれない?」
「不倫旅行の、うそを言えって?」
「そこまで大きく考えないでよ、ちょっとね、一緒に行くの。程度でいいんだって」
「お断りする」
「えー。じゃぁ。ここの代金も払うから、ね?」
「なんで、私?」
「だって、旦那の信頼熱いしぃ、あなたが言うと、旦那なんか素直に聞くっていうかぁ」
シジュウカラさんは黙った。
断ったほうがいいって、この女にかかわるとろくなことないって、
「ばれた時にはどうしたらいいの?」
「ばれないって、」
「ばれたら?」
「うーん、じゃぁ、その時は何も知らない。一緒だって言えって言われたって言っていいよ」
「そう……分かった」
「よかったぁ」
「で、どこ行くの?」
「温泉。本当は、海外行きたいけど、それだとさすがに旦那にばれるじゃない。温泉だと、PTAの会とかで行くので、了解してくれるから」
「PTAね。会長だものね」
相変わらずリーダーでいたいんだ。
その後、食事が運ばれて会話は他愛もないことに変わった。
あの人、イヤミの片棒担ぐ気かしら? 忠告しに行ったほうがいいのかしら?
二人が帰るとき、朗らかなイヤミに対し、後ろからついていくシジュウカラさんの顔は、多少、イヤミを馬鹿にしたような感じの印象を受けた。だから、あたしは黙っていた。なんとなく、黙っていたほうがいい気がしたのだ。
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