第28話 ホラーより、怖い。

 コラム用の記事を何とか半分まで減らし、下書きの推敲を済ませ、新しい記事を読もうと記事を選んでいた。

 二人掛けのテーブルいっぱいに紙を広げているので、だいぶ若ければ学生のテスト勉強には見えるだろう。あいにく、だいぶ昔に卒業したけれども。

 隣の四人掛けに、若い女性二人が座った。大学生か、社会人一年生か、でも平日なので、大学生かなぁ。ぐらいの関心だった。

 取り立てて風変わりな様子はなかったので、記事のほうに集中していた。というか、この記事が面白かったので、正直視界に入った。程度だった。

 紙をめくった時、ベンチ側に座ったハナちゃんだか、ハルちゃんがため息をついた。椅子側に座ったのはアキちゃんという。(二人の会話からあだ名は聞こえていた)

「ハナちゃん、大丈夫?」

「アキちゃん、あたし、もう駄目だわ」

「大丈夫だって、彼は少し待ってくれって言ってたんでしょ?」

「だって、待てないもん」

「あぁ、うぅん」

 いかん、記事が読めん。

「あたし、結婚したいんよ」

「わかるけど、まだ学生やん」

「でも好きなんで、結婚したい」

「でも、彼も、社会人一年生で養えないから、待ってくれ言うんでしょ?」

「絶対、あたし捨てられる」

 な? なんで、そう思った???

「仕事、仕事、言い出したら、家に戻ってる形跡ないし、女できたんや」

 ほ、ほぉ? なんで、そういう発想?

「そんなことないよぉ、彼、一途やん。仕事に慣れるまでは、いろいろあるんやって」

「なんで? 五時に終わるのに、五時半に電話でれんとか、ないやろ」

「いやぁ、三十分では、」

「ブラックや、ブラック企業や」

「ハナちゃん」

「だって、寂しぃもん」

 ハナちゃんが机に突っ伏した。

 この会話をその後しばらく続けた二人。

 よくイライラせず付き合うわぁ。アキちゃん。と思った。

「じゃぁ、別れる?」

 アキちゃんのストレートにハナちゃん顔を上げる。

「ハナちゃんからフッたら、いいやないの?」

「え? でも、そんなことはできんしぃ」

「我慢するのもいや、フルのもいや、どうしたいん?」

 あぁ、アキちゃん、いがいにもイライラしてたのね。

「え? そ、そんな、真剣に言われても」

 ほらぁ、甘ったれたしゃべり方するやつって、そうやってかわいそうな人を演じる……。



―あたしは、あなたと違ってぇ、彼しかいないのよぉ。どうせ、子供居ないじゃない、別れてよ―

 いやなこと、思い出した……。


「彼のこと信じれるなら、待つしかないよ。というか、待ってもらってるんだからね。学生が結婚するって大変だから、せめて、社会人になってからって、向こうが待ってくれてるんだからね。彼のやさしさに甘えて、人を振り回さないでくれる? あたしから、彼を奪ったの、ハナちゃんだからね」

 アキちゃんが立ち上がり、伝票を持って出て行った。

 ど、ど、どういうこと?????

 え? つまり、アキちゃんの彼を、このハナちゃんが奪い、彼が結婚してくれないという相談を、アキちゃんにしていた? ってこと?

「あ、ケンちゃん? あたしぃ。そう。うん、アキ、怒って帰ったぁ。え? だって、いつまでも、ケンちゃんに未練あるっぽかったからぁ、懲らしめたの。やだぁ。大丈夫よ、アキはいつだってあたしには甘いから。でも、今日のはちょっとむかついたからぁ、しばらくは連絡しないでおく」

 背筋がぞっとする。

 お願いだから、早く出て行ってくれ。

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