第26話 タクシードライバー

 今日は、ファミレスでの話ではなく、職安での話。

 なんで、職安に来ているかと言えば、まぁ、用があってのことで、別に、私は、自称コラムニストで何とかやってきているのだけども、

「いいのありそうか?」

 背後に立ったのは、ファミレスの店長で、同級生。

 あたしが日がな一日ファミレスにいるのを見て、世話を焼いてくれたのだ。朝早くからうちに来て、無理やり連れだされ、やってきたのだ。

 職安カード作って、パソコンで検索。

「で、いいの、」

「ない。年だし、経験ないから、なかなかいいの、ない」

 店長は呆れたように鼻息をはいて向こうへ行った。

 店長の好意はありがたいのだけども、自称コラムニストってのは、ニートと変わらないようだ。まぁ、同じかも。

「ちょっと、ちょっと」

 大声に耳が動く。振り返れば真後ろの「受け付け」でお爺さんがわめいている。多分、おじいさん。

「はい」

「仕事紹介してや」

「番号取りましたか?」

 出た、マニュアル。どう見ても、その年でここの利用手順が解るような感じではないだろうに。どうしてマニュアル通りに進めるかなぁ。

「知らん。仕事、仕事を紹介しろって」

「ですから、」

「はい。すみません。どうかしましたか?」

 こういう面倒にはやはり熟練だろう。ということで、中堅の男性登場。

「仕事探してくれ」

「まず、この紙に書いてもらいますがいいですか?」

「何を?」

「名前と、職歴と、あと、免許なんか持っていれば」

 名前を大きく言う。中堅は急いでメモをし、ご自分で書いていただいたほうがいいのですが、と言った。

「めんどくさい」

 の一言で突っぱねた。

 年齢に住所、電話番号。個人情報大放出した。やはりお爺さんだった。68歳。「農業してたけどよぉ、腰やって、仕事探さなきゃいけないのよ、年金もらえないから、」

「何か、免許お持ちですか?」

「おお、あるよ、」

「……運転免許証ですね、ほかは?」

「ほか? 他ってなんだよ。これあればタクシーできるだろ」

「え? タクシー?」

「おう、タクシーやりてぇんだよ。だから、ほら、仕事探せよ」

「いやいや、これでは、二種免許取ってませんよね?」

「はぁ?」

「だから、二種免許。タクシーの乗務員になるためには、二種免許というのが居るんですよ」

「じゃぁ、あれだ、あのほら、病院のやつ。あれでいい」

「いやいや、あれも、ひとを乗せて乗車金をもらうので、二種免許がいりますよ」

「病院に併設してるやつでもか?」

「それは病院で聞いてもらわないといけませんが、病院でのことになりますと、ヘルパー2級の資格は持っておいたほうがいいですけど、ないですよね?」

「なんだよ、それ、タクシーだめなのか?」

「駄目ですねぇ。今から教習を受けて取得してもらってからになりますね」

「教習……、金ねぇぞ」

「ですが、法律で決まってますから」

「タクシーはすぐなれるって聞いたのに、」

「免許があれば」

「……、病院のもだめか」

「病院へ聞いてみないとですが、患者さんの乗り降りを手伝うので、腰を痛めているのでしたら、無理じゃないでしょうかね」

 おじいさん、深い、深い、ため息をつく。そして、背中を丸めて出て行った。

 他の仕事を紹介することはしないらしい。まぁ、聞かれないことに動くほど、お役所は優しくない。のだろう。

 にしても、おじいさん、あなたが今からタクシードライバーになっても、あたし、あなたのタクシーには乗りたくないかも……。

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