第22話 人生て
実に考えさせられた。なるほど。と思った。
両隣の建て替えの基礎調査が始まった。と思われる。人がわんさかやってきて、ものすごい重機があったから。でも、あたしはいつもどおり、ファミレスに出勤。
かなり日差しが強くて、五分ほどだけども、ファミレスに着くなりため息が出た。
いつも通りカウンターに座って、サンプル教本を取り出す、真後ろの六人掛けの席に、数名の中年女子会が開かれていた。年齢がバラバラなので、職場の女子会だろうか? と思ったが、どうも、子供たちが保育園からのママ友で、子供たちはもう成人しているらしい。
一人がため息交じりに言いだした。
「なんか、寂しくてね」
「アッくんママは一人っ子だからね」
「そう、県外の大学行ったから、もう、世話する人いないと思うとね、」
「旦那は?」
「あれは、もう、別だから」
全員が確かにと笑った。
「でもさぁ、あたし最近よく思うのよ」
一番平和そうな顔(失礼)していた人が言った。―ちなみに、今はドリンクバーで、ドリンク入れていて、ごみ捨ててるので、彼女たちの顔が見える―
「主人公って、変わるね。と」
は? 全員が首をかしげる。
「いやぁ、ほら、結婚するまで、違うなぁ、つい最近まで、全て自分がどうしたとか、何をするとか、主語は自分だったじゃない? わかる?
子供の頃って、あたしが楽しいもの。とか、あたしはこれが好きで、あたしはこれが嫌いって、全てあたしが主語だったじゃない?
旦那と付き合っている時に親に文句言われても、あたしが好きな人なの。とか、あたしは彼と一緒に居たいの。だったのが、結婚して、主語が増えたのよね、一番は好きな相手だから、あ、ちなみに、今はないよ。ないけど、新婚時代は、旦那が好きなものを作って、旦那と一緒に何かをして。
それが子供が生まれると、子供が最優先になる。子供が泣いたから、子供と遊んで、その次に旦那。そのころからやたらと、舅とか、姑とか、親戚筋の目が気になるから、お義父さんがとか、お義母さんが、とかも増えてくる。
子供が小学校に入ると、姑とのいざこざが目に見えて増えて、お義母さんを何とかしろって旦那に言って、子供は子供でいうこと聞かなくなったり、中学とか思春期には、子供が反抗する。姑がうっとうしい、旦那の給料が少ない。って、なって、子供の手が離れた途端、びっくりするくらい主語がなくなるのよ。
姑たちも、孫が居なければうちに用はないから、姑の愚痴を言わなくて済む。
旦那はいつも通り帰りが遅いから、旦那の何たらはとうにない。
子供はすっかり手を離れて、いつまでも干渉しててもしようがないと思うけど、口出すと、ちょっとぎくしゃくしてしまって、家に寄り付かなくなるんじゃないかって思って言えなくて、そうしたら、いつの間にか、主人公じゃないのよ、自分。
子供のころあんなに自分いっぱいだったのに、結婚して、子供ができた途端、自分の中の自分領域がなくなってて、気づいたのよ。あたしの好きなもの、嫌いなものって、何だろうって。
まぁ、旦那に言われて思ったんだけどね。
珍しく旦那がケーキ買ってきたのね、ガトーショコラ、でもあたし、チョコレートケーキ類苦手なのよ。食べないわけじゃないけど、好んで食べないのね。そういったら、「え? 嫌いだった?」っていうのよ。
嫌いじゃない。食べれるけど、好きじゃない。
これがさ、あぁ、夫婦の目ってずれてるんだ。と思ったんだけどね、旦那は、子供と一緒に食べているあたしの姿覚えてるのよ。だから好きなんだろうと思ったわけ。でも、あたしとしては、子供たちが小さかった時には残すし、大きくなってからは、両方食べたいけど一口でいいというから、半分食べていただけ。
だから、食べれるけど好きじゃないってことなんだけど、旦那にしてみれば、好きじゃないという感覚はないというのよ」
「ないわけないじゃない。あるよ、そういうの」
「そう、だからね、いろいろと話して、いくら好きだからって、365日かける三食食べてたら飽きるし、そんなに食べなくても好きなものは好きだと思うって、」
「正論」
「そしたら、お前の好きは何だって。いうから、あたしも驚いたけど、好きなものないのよ。びっくりしたけどね」
「ないの?」
「あたしはあれ好きよ、ハンバーグ」
「考えたけどね、主語が変わって、知らないうちに最優先に従うほうがいいと考えていたのね。子供たちがファミレス行きたければ、そこで選べばいい。旦那がラーメン屋行けば、そこで選べばいい。あたしが何か食べたいとも、どこへ行きたいともいわないのは、自分が自分の中で最優先じゃないからだって。
だから、好きなものがないんだって。
そう思った時に、あぁ、主役交代なんだって。人生ってやつの中であたしは子孫を残した。役目を終えたんだ。これからは自分のための時間をやりくりするんだって。そのために、自分探ししなきゃいけないんだと思ってね。人生の主役はすでに子供たちにあって、あたしたちは幕切れのために謳歌していいんだって、」
「いやいやあんたまだ若いし」
「でも、そう思ったら、子供が家に寄り付かなくてもさみしくなくなったのよね。あっちはあっちで楽しめ、こっちはこっちで楽しくやるからって感じでね」
「なるほどね、向こうは、向こう、こっちはこっち、そうね、前向きだわ」
なるほど、主役交代。かぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます