第20話 介護、かぁ
よく晴れた日曜日。
両隣の家の建て替え工事もなく、静かでいい朝を迎える。
こういう時は、コーヒーを入れて、大量に洗った洗濯ものなんかを眺めながら一日のんびりしたい。
という理想はどこへやら。
平日家に居ないからやることたまりすぎてた。
洗濯機は昼過ぎまで回して朝一で干した奴と入れ替えで干して、掃除して、何本か電話をかけ(なんで日曜日に電話するんだろう。と思いながら)、やっと落ち着いたと思ったのが、全ての洗濯物を取り込んだ四時って、どんな日曜日だよ。
やっとゆっくり座ったので、腰が痛い。
坐骨神経痛を患っているので、長時間立っているのも、座りっぱなしもツラい。まぁ、これは運動不足のせいが一番なのだけども。
洗濯物を畳みながら、はてさて、今日のブログはどうしましょうか? と考える。
そういえば、二、三日前のあの人たち、どうなったかな?
ひどく疲れた人と、ごく普通の人。ママ友何年て感じでしょうかね、ひどく疲れた人は緋郎さん(仮名)とでもしましょうか。で、ごく普通の人を元木さん(仮名)。にしましょうか。
二人は会話をすることもしんどいという理由でカウンターに座ってきました。確かに、テーブルをはさむと声を出さないといけませんからね。
座るなり、緋郎さんは机にもたれかかり、両手で頭を包んだ。
元木さんがケーキセットを注文し、二人分のコーヒーを持ってきた。
「ごめんね、」
「大丈夫、このくらい。それより、緋郎さんのほうこそ大丈夫?」
多分、弱弱しい笑顔でも見せたと思う。
「それで、何があったの?」
元木さんはコーヒーを手で包んで小声で話しかける。緋郎さんが返事をするが、多分、適当な相槌で、本筋を話すにはまだ心が決まっていないような感じだった。
元木さんはゆっくりでいいよ。とって、コーヒーをゆっくりと飲む。
そのうち、意を決したのか、緋郎さんが弱弱しく口を開いた。
「離婚、しようかと思って」
「え?」
あぁ、いやな話小耳にしてしまった。と思ったが、一度聞いてしまうと、結構興味ある話題なんだよなぁ。
「何? なんで?」
元木さんが驚いて聞く。本当に思ってもいない話だったようだ。
「疲れちゃってね」
それは、見たらわかる。
「なんで? 何があったの?」
「いろいろ一気にありすぎて、もう、いやになっちゃった」
元木さんは先を促すように頷いた。
「旦那の親、舅と姑ね、あれが、同居しようって言ってきたのよ」
「近くに住んでいたよね?」
「そう、なんかアパートの建て替えで出なきゃいけないって、だから、うちに同居させてくれって」
「緋郎さんちは、確か、」
「うちの両親の家。両親死んでいないけど、でも、そこへ転がり込む? 普通?」
「まぁ、嫁の実家は、ねぇ」
「でしょ? そのうえで難色示してると、姑が、他人じゃないんだから、いいじゃない。とか言って、引っ越しの日取り勝手に決めて、引っ越してきたのよ」
「はい? もう、引っ越してきたの?」
「そう、山のような段ボールで、今リビングは入れないの。そのくせ、リビングにしか布団敷けないからそこで寝てるけど、狭いとか、床が硬くて痛いとかいうのよ。でも、うちそんなに広くないし、余っている部屋って言ったら、リビングぐらいなのよ? それなのに、段ボールで部屋いっぱいだわ、寝る場所がないとか、そのうえで、食事作れっていうから作ったら、塩分高すぎ、殺す気かっていうし、もう何なの」
「旦那さんは?」
「家の狭さ実感したら出てくよ。とか言って取り合わなくて」
「でも確かに、狭けりゃ出ていくと思うよ、」
「出て行ってほしいけど、行きそうもなくて、最近じゃぁ、うちの親の稼ぎが悪くてこんな狭い家しか建てられなかったんだとか言って、あんたたちずっと借家じゃん、て、持ち家なんて墓に持っていけないから、持ってる意味がないとか言いながら、借金あってローン組めないだけの癖によく言うわよね」
「そう、そうなんだ」
「そうなのよ。まだものすごい借金があるのよ」
「でも、そう狭いと暮らせるの?」
「暮らせないわよ。もう、最近じゃぁ、姑の服が廊下に散乱してて、いったいどうしたのか? って聞いたら、どの箱に入れたか解らないから、全部開けてみてるんだって、そしたら、余計に狭くなって、怒って家出したのよ」
「は? 家出? 誰が?」
「姑。片付けもせず、ごみ屋敷状態にしていなくなったのよ」
すげぇ姑だ。
「そしたら、舅さんが怒り出して、なんで見ていてくれないんだって、」
「何を? お姑さん?」
「そう。舅は疲れたんで、同居したんだって言いだして」
「疲れた? なに、え?」
「姑、認知症だったのよ。徘徊付きの」
「知ってた?」
「知ってるわけないじゃない。旦那も、なんでそんな大事なこと言わないんだって、舅に怒ったけど、言えば、姑の恥だからって。だからって知らなきゃ、打つ手もないじゃない? 探して、まぁ、近所の花のきれいな家で立ち話してたからよかったけど、家に帰って、服を段ボールに入れて驚いたわよ。優に五十個はあると思われた段ボールの、半分以上が空」
「どこかに片付けたってこと?」
「違う。業者さんに段ボールをそれだけ用意させて、段ボールを組み立てて運べって、なんか、あるみたい。その認知症の特徴というか、なんというか、変なこだわりというか。そういうの。それで、段ボール片づけたら、びっくりするくらいの声出して怒るのよ。ご近所さんが犯罪だって通報するほどよ」
「た、大変だね」
「それでね、施設とか、詳しくないかなぁって、知らない?」
「さぁ、うちの両家の親元気だから、……でも、ちょっと、調べといたほうがいいのかもね」
「そう思うよ。もし、なんかそういう情報あったら教えて。とはいっても、施設利用するかどうか、解らないけどね」
「家族で見るの? 大変らしいよ」
「舅がね、親の面倒を見るのは子の仕事。よそ様に預けるなんて我が家の恥だって言ってるのよ。でも、その舅も、痴呆が来てるようでね、支離滅裂な時が多くて」
「今は? 今は誰が見てるの? 旦那の妹。息抜きをさせてほしいって頼んだの。あんたの親でしょ。って言って、無理やり来てもらった」
「大丈夫なの? あとでもめるんじゃない?」
「もめても、いきなり親の介護と責任を押し付けられたのよ、昼間の数時間ぐらい頑張ってもらいたいじゃない」
緋郎さんは深いため息をついた。
思いのほか長くなったので、いったん、ここで区切ろう。
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