第19話 鈴木さんの話し(2)
今日は取り急ぎの用があったので、午後の三時に来店。
というか、家に帰る前にお茶したくなったのでやってきました。
「あら? 今日は来ないのかと思った」
主婦バイトの鈴木さんが仕事終わりのようで、私服で立っていた。
「いやぁ市役所に。もう終わりですか?」
「そう。あ、よかったら一緒していい?」
「はい?」
「今日は疲れて、お茶したくて、いい?」
「あぁ、喜んで」
鈴木さんはいつもお団子に髪をまとめているので、おろしていると誰だか一瞬解らない。薄化粧はとても上手にされていて、ママさんというより、お母様って感じ。
子供のころ、ちょいといいとこ(子供をピアノ教室に通わせているような)母親て感じ。いや、それが普通なのかも。
「変な感じよ。お客でドリンクバーって」
そう言いながら、あたしたちは元喫煙席に向かい合って座った。
店内には学生がちらほらと、お迎え前のママ友たちが居た。
「勉強、がんばってるよね。資格試験?」
あたしは苦笑するしかなかった。一応、表向きはそう言うことになっているのだが、ここで正直に話すべきだろうか、だが、話すと、いろいろと後で面倒だな、店のことバラスなとか言われそうだし。
と思ったが鈴木さんはそんなことには微塵の興味もなく、とりあえず聞いただけというような感じで別の話題へと移行した。
「今日はね、もうね、もうね、なのよ」
「何があったんですか?」
「昼の忙しい時間に、説明しても、説明しても解ってもらえなかったのよ」
「はい?」
「チーズインハンバーグと、チーズハンバーグをなぜに分ける必要があるのかって」
「……はぁ?」
「あたしもおんなじこと思ったわよ」
「若いクレーマーか、おばさん?」
「違う、おじいさん」
「おお、おじいさんですか。で、なんて説明したんです?」
「チーズが中に入ってるのがチーズインで、上にかけているのがチーズハンバーグ」
「ですよね。てか写真でそうなってるし」
「そう。そしたら、中に入れて焼くと火の通りが悪いから、食中毒が起こるかもしれないって言いだしてね」
「いやいや、ちゃんと焼いてるし。てか、そう思うなら、チーズハンバーグで、」
「言ったら、チーズの量が少なすぎる。とかいうのよ」
「はぁ。まぁ、そうですね、写真でも量は少ない気がする」
「それの繰り返し」
「繰り返し?」
「どうしますか? って言ったら、もうちょっと考えるって、少ししたら呼ばれて行ったら、どう違うんだって、」
「え?」
「苦笑いでしょ、さすがに困ってたら、あとから家族かなんかが来て、ハンバーグは食べられないでしょ。おかゆ、家にあるから、帰るわよって。何も注文せず帰って、あとから来た家族が戻ってきてね、痴呆で徘徊してたの、ご迷惑おかけしましたって、いくらですかって。まぁ、料理頼んでないからお金は発生しないんだけどね、なんか、どっと疲れて」
「あぁ、痴呆で……」
「ああいうの見るとね、うちもいずれは来るんだろうなぁって思うとぞっとする」
「うちもって、ご両親そんなに年なんですか?」
「舅と姑。口が立つから、もしってことになったらぞっとする」
乾いた笑しか出ない。
「あなたも会ったことあるのよ、大家。あれうちの姑」
「へ? ……あれ? あれっつっちゃった」
顔を見合わせて笑う。
大家さんと言えば、うちの町内を世話してくれている人だけども、まぁ声が大きくて、人の噂を言いまわる代わりにその声の音量でみんなが知ってしまう。という天然迷惑な人。とはいえ、ずっと世話役をしてくれて、ちょっとでも困ったことがあれば迅速に動いてくれるので、とてもありがたい人なんだが、どうにもこうにも苦手で。
鈴木さんはそこ大家さんの嫁だという。(名前が違うのは仮名だし、別にしないと、誰が誰か解らないため。本当は、同じ苗字です)
確か、大家さんの家の三軒隣の新築に息子夫婦が住んでいる。と言ってたが、ご近所さんだったのねぇ。
「なんだろう、気休めだけども、……あの大家さんなら、大丈夫じゃないかと」
「あ、やっぱりそう思った? あたしもそう思った」
鈴木さんは笑ってアイスカフェ・オ・レを飲み干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます