第17話 非現実的な出来事

 面白いこと? そうそう身近に起こるはずもなく、まぁ、両隣が一斉に家の建て替えをして、我が家がひどく揺れて、ひずみがきそう。とかいう現実を別として、他人が起こす非日常に遭遇することは極めて難しい。

 フラッシュ・モブ的なプロポーズも、不倫や痴情の大乱闘もそんなものに遭遇確率など、宝くじに当選するほどだと思う。

 そんなあり得ない日常などこの田舎で起こるはずがない。と思っていたのだが、


 あたしが足しげく通っているファミレスまでは徒歩で五分かかる。その間に二つの公園前を通る。一つは小さな公園で、滑り台とベンチがあるだけ。多分、土地がどうにもこうにも余ったんで作ったような公園。もう一つは、ちゃんとした公園(笑)で、滑り台やブランコや、ジャングルジムなど、なかなか遊具がそろっている場所だ。

 家からすぐにあるのが小さな公園だ。女の子が一人で遊んでいた。周りには大人らしき人は居ない。でも、女の子は楽しそうに遊んでいるので、多分、あたしには見えないような場所、ベンチは道路から少し陰になっているので見えない。にいるのだろうと思って歩き出す。

 今日はいい天気で、どうせなら弁当を買って公園のベンチで食べようか。など思ってしまうほどの五月晴れだ。

 緩やかなカーブを描く丁字路を右に曲がると、もう一つの公園が見えてくるのだが、そこに警察が数名、やじ馬が数名、泣いている女の人がいた。

「赤いスカートをはいた女の子で、四歳。名前は、」

 あたしは思わず立ち止まった。

 赤いスカートの女の子? どっかで見たぞ、うん、見た。

 言うべきだよな、言うべきだろう。でも、なんか、忙しそうだが、うーん

 あたしはおまわりさんの一人の背中を叩いた。

「あのぉ、赤いスカートの女の子ですか? 見たんですけど、」

 と言った瞬間の、

「見ました?」

「見た?」

「どこで?」

「いつ?」

 あぁ、こういうのを矢継ぎ早の質問というのか、と思ったが、あたしは彼らに落ち着いてもらうために、深呼吸をして、

「向こうの小さい公園で一人で遊んでましたよ。ベンチ、道路から見えないんで、親御さんそこに座ってるんだとばかり思ってたんですけど」

 それ急げ―――。と言わんばかりにおまわりさんたちがダッシュしていく。

 なぜだか解らないが、私もつれていかれた。

 あのぉ、あまり運動得意ではなく、一メートル走っただけで(おいおい、一メートルって、突っ込むところね)肺が痛い。

 とにかく、小さな公園に戻ると、先に到着したお巡りさんが、女の子はいなくて、その子の靴。迷子の靴の片方を見つけて翳している。

 ひゃーーーー―。ご無体な責任感が押し寄せてくる。なんで一緒に連れてこないんだとか、なんで見張っていてくれないんだとか。いうけど、道路からベンチ見えないし、と思ったら、もう一人のおまわりさんが、女の子を抱き上げて公園から出てきた。

「ベンチで寝てました」

 どっといろんな穴から冷や水が落ちた気がする。

 母親は女の子を受け取ると、いろんな人に、無作為に頭を下げていた。

 あたしにも、よく覚えていてくださって、と言ったが、いやいや、なんというか、

「見つかって、よかったですね」

 そこで思う。

 非現実なんてものを味わいたいと思うのは、今がとても幸せなのだよ。あんなもの、心臓に悪いわ。

 もう、ファミレスに行かず、家で寝てようか……、まぁ、今日はまだ、工事静かだったから……。


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