第16話 四方(よもう)さんの話し
今日も、朝早くからトッテンカン、ガガガガガガとうるさいので、ファミレスに避難。
いつものように、朝はモーニングを頼み、ドリンクバーを何度目かお代わりをする。
モーニングが一息ついたころ、四方さんが近づいてきた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。昨日は休みだった?」
「違うんですよ、夜の人や一人休んだんで、代わりに出たんで、」
「なるほど、じゃぁ、今日はしんどいね」
「です。でも、昨日面白いことあったんですよ」
客は入り口付近に座って新聞を読むおじさんと、元喫煙席でノートパソコンをいじっているサラリーマンだけという、なんともコスパの悪い空間だったが、四方さん的には、あたしにどうしても、いや、あたしじゃなくても、誰かに言いたくて仕方なかったようで、カウンターを掃除してます
「昨日、九時過ぎだったと思うんですけど、雨降ってきたじゃないですかぁ」
「あぁ、夕方からね」
「そう、で、結構降ってたんで、その人たち濡れてたんですけど、なんていうんですか、こう、車から店までだから、傘ささずに走っちゃえみたいな感じで走りこんでくるじゃないですか、それが、その人たち、急ぎもせずに、なんか暗くって、」
「何人?」
「あぁ、カップルですよ。いくつだろう、まぁ、若くないけど、中年じゃないくらい」
「四方ちゃん的にあたしは中年?」
「あ……ねぇ」
「じゃぁ、三十代かな? その人たち」
「かもです。で、その二人喫煙席のほうに座ったんですけど、ちょー暗くって、注文取りに行っても、ホット二つとか言うんです。ドリンクバーじゃなくてですよ。気になるじゃないですか、だからってわけじゃないけど、その時まだ片付けが残っているテーブル結構あって、片づけてたら、いきなり、泣き出したんですよ、」
「別れ話だったか、」
「そうなんですよ、別れたくないよ、ボク直せるところ直すからって」
「ボ、ボク?」
「そうなんですよ。男の人のほうが泣いて、女の人は足組んで、腕組んで、上から目線的な態度で、泣きゃいいってもんじゃないでしょ、あんたなんなわけ? って、」
「男が浮気したとか?」
「それがぁ、」
四方さんは思い出し笑いを押し殺して、
「約束したじゃん、前日に食べた食器はその日に洗えって、なんで洗ってなかったわけ? っていうんですよ。でね、その返事が、だって、ボク、その日、出張で、今朝帰ってきたから。って、」
「そ、そりゃ、その日には洗えないわ。で、彼女なんて?」
「言い訳すんな。って、ふざけんな役立たずって、出て行ったんですよ。唖然でしょ? で、彼はしばらくそこでぐずぐず泣いてて、そしたら携帯なって、慌てて外行くから、レジのガラスから見たら、彼女車で待ってたんですよね」
「待ってたというか、なんというか、で、いったい何だったの?」
「わからないからおかしくて。もう、言いたくて言いたくてしかたなかったんですよ」
四方さんはそう言って仕事に戻っていった。
いろんなカップルがいるけれど、出張で留守中にもかかわらず家事を怠ったって怒る彼女って、どうなんだろう。自分がすれば済む話なんじゃないのだろうか?
別に、女が家事全部をすることが当たり前だという考えではないし、分担してやってくれるならそれはありがたいと思うべきだが、これから先、また同じく出張なんかあって、台所に食器がたまるたびに、彼女は怒るんだろうか? なんで洗ってないんだ? って。いやそれ、無理なんじゃないかしら?
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