第14話 えええ? の続き
宗教勧誘の続き。
ウーロン茶を思わず握りしめながら、あたしは聞き逃さないようにしていた。
……あまりいい趣味ではないなぁ。と解ってるけども。
「しゅ、宗教?」
山本さんが絶句しながら聞き返している。
そりゃそうだ。思いもよらぬ話だもの。
新しい保育園に入って初めて声をかけてきてくれたであろう人にランチ誘われてきてみたら、知らない人が居て、おいしくもないごはん(ファミレスのご飯がまずいと言っているのではなく、この状況での食事がまずいって話)を食べ、デザートが来たところで、いきなりの、
「宗教に興味ない?」
とくれば、驚くのも無理がない。
「宗教、ですか?」
「そう。何か信心してる?」
「え? いや、とくには」
「駄目よ、それじゃ」
今まで黙っていた梅原さんが声を出した。
あぁ、この人、勧誘ノルマ多分上位だわ。話し方が滑らかだわ。
「このご時世、何も守ってくれないじゃない。拠り所が必要だと思うのね、この宗教はね、安心して死後の世界へ行けるって素晴らしい宗教なのよ」
安心して死後の世界へ行けたとしても、今が大変なら意味ない気がするのだが、今を楽にしてくれよ。そっちのほうがあたしには重要な気がするのだが、
「この宗教をね信心していると、お棺の時、みんなで運ぶでしょ、あれが少ない人数でいいのよ。なんでかというと、それだけ邪魔なものがないから。信心しない人は何人モノが担がなきゃいけないのよ」
あれはそれで担いでるんじゃなくて、みんなで送りましょうって、意味で持っているんじゃないのか? 親や、兄弟や連れ合いや、死者にゆかりある人が最後に導くものであって、悪い人だから重いとか、いい人だから軽いって、そういうもんじゃない気がするのだが。
「はぁ」
山本さん、あなたのこと知らないけども、がんばれ。と応援してしまっている。
「それにね、信心しないとみんないいところへ行けないのよ。あなたが入信したら、あなたのご両親も入ってもらって、みんなでいいところへ行きましょうよ」
「……、亡くなっている場合は?」
「あらぁ、それは知らなかったわ。でも、もう一人はいるでしょ?」
あたしの頭に「?」ができた。
何だろう、なんか、いやな気分がした。
「まぁ、母は生きてますけど」
「じゃぁ、お母様だけでも幸せな場所に行ってもらいたいじゃない、まずはあなたが入ってね?」
沈黙、山本さんが考えているのだろう。それをどう考えているかはわからないが、あたしの見る限りでは、目の前に座っている三人は期待しているようだ。
ちなみに、あたしはさらにウーロン茶を取りに行っている最中。座りっぱなしで腰が痛い。と腰を伸ばすふりで四人を観察中。
「いいです」
山本さんがおもむろに言った。
「いい? 入ってくれるのね」
井上さんがカバンからパンフレットを出す。
「違います。入りません。興味ありません。むしろ、気分悪いです」
山本さん、意外にはっきり言った。
二十代半ばぐらいで、身なりはきちんとしていて大人しそうな印象を受ける。まぁ、だから声がかかったのだろう。
髪を耳にかけながら、
「信心しないといけないほど私強くないので。すべてを捨ててまでそんなものを信じられるほど私強くないんです。邪念も、悪いこともあるでしょうけど、信じていなければ(幸せの場所とやらに)受け付けないなんて気量の狭い宗教に入りたいとも思わないし、第一、父が行った逝った場所に逝けないのなら、母は悲しみますから」
おお、言い切った。
三人の反応は、「つまんないわ、この人」という顔をした。
うわぁ。なんだその反応。
まぁ、宗教勧誘をファミレスでするような人たちだから、人の琴線に触れても気にしないとは思ったが、否定された途端あの営業スマイルも、会話すらもなくなり、デザートをさっさと食べると、それじゃぁ。と立ち上がった。
山本さんの皿にはまだイチゴが残っていたが、それを残ってまで食べる気はなさそうだった。
お会計はきっちり割り勘されていた。もし、勧誘されたらおごってもらえたのかしら?
それにしても、宗教の勧誘って、初めて見たぁ。
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