第7話 学生(1)

 午後の三時を回ったころ、一団が入ってきた。うるさい。ので、顔を上げてそちらを見れば、学生の団体さんだった。

「チョーすいてる」

 と言いながら窓際の一番大きなボックスに座る。十人近くいるようだ。

 制服がまちまちなのでどういった知り合いなんだか解らないが、友達であろうことは、制服が違ってもよくわかる。

「あんたそれ好きだね」

「おいしいじゃん、カルピス」

 というので、彼女はいつもそれを頼むのだろう。コーヒーを頼んだ子に、「大人――――」とからかっていたり、初々しくて口の端が緩む。

「さて、中学卒業して、二か月後の同窓会ですが」

 二か月で同窓会?

「みんなどうよ?」

「あたし、中学に戻りたい」

「モトキクラス最高だったよね」

 多分中学の三年時のクラス担任がモトキ先生というのだろう。

「勉強全然。知ってる人いないし」

「中学のほうが断然楽しかった」

「わかるぅ」

「高校とかホントめんどくせぇ」

「ナオキは進学校じゃん、どう?」

「明日から、朝と放課後テスト」

「はぁ? 意味わかんねぇわぁ」

「まぁ、これ、普通」

「なんで、中学卒業すんだろうね、そのまんまでいいじゃんねぇ」

「そういえば、カエたちは?」

「あぁ、あいつらも誘ったけど、部活が忙しいとか言ってた」

「裏切りもんだ。同窓会には絶対に行くとか言ってたのに」

 若いねぇ。いやぁ。若い。でもなぁ、君たち。それはまだ余裕があるから集まっていられるんだよ。すぐに高校で友達を見つけ、高校生活が忙しくなるんだよ。そして、その「同窓会もどき」は自然消滅していくんだよ。

 それから、裏切ったという言葉は、裏を返せば、高校で楽しみを見つけたその子に対する嫉妬だからね。

 そうやって大人になっていくんだよ。

「あ、ねぇ、ナオキ、数学教えてくんない?」

「やめろよ、ここで、」

「いいじゃない、あんたが言ってるとこと違って、勉強大変なんだって、」

「つまんなくなる」

 と言いながらも、多分、ナオキ君と、彼に教えてもらっている子は隣同士になって数学をしているのだろう。

「うちの学校ね、」

 少し鼻声の子が学校の話を始めた。変わった購買メニューの話で盛り上がったり、変な先生の話で、中学の時の誰かに似てるとか、そういう話で盛り上がっていたが、はやり盛り上がるのは中学の時の出来事のようだ。

「体育祭、やばかったよな」

「だよね、あれ、まねできないよね」

「山田とかめっちゃかっこよかったよ」

「まぢ? オレかっこよかった?」

「あの時は」

 盛り上がる声が若くて、弾んでて、そのまま立ち消えた。

 というか、若さに当てられて疲れた。

 あたしにはあんなまぶしい季節はなかった。過去も、今も……未来にあるのかどうかわからないので、あまり期待しないでおこう。

 ドリンクバーのエスプレッソが、ごぽごぽと咳込んでいくようだった。

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