第6話 今日は休みのはずなのに
土曜日まで工事をするとは思わず、昨日、思いのほか出かけなきゃいけなくなったけど、さすがに日曜は休みのようで、静かだわ。
解体進捗は両家とも同じぐらいじゃないかな?
防音シートで囲っているので中が解るわけではないけども。
日曜の平和で静かな時間を過ごせる。
居間に、昨日コンビニで買った焼き鳥と、ビールを用意する。
昼間っからやるのが贅沢なんですよ。わかりますよねぇ。
ええ、日曜に出かける予定も、誘ってくれる相手もいない、寂しい身の上ですよ。でも、ぜいたくな時間は過ごせます。どうせ訪問者もいませんし、
と思っていたら、玄関のチャイムが鳴る。
眉をひそめて出てみれば、東川さん(我が家の東にあるお隣さん・仮名)がニコニコと立っていた。
「ごめんなさいねぇ。お休みの日にぃ。なんか、最近、あなた出かけてるから、なかなか会えなくて、これね、うるさいでしょ、お詫びというか、ね」
と、かなり大きい箱を差し出された。
東山妻の後ろに旦那が居て、苦笑いを浮かべている。
「いや、工事始まる前にいただいてるし、うん、別に迷惑とか、」
「でもほらぁ、まだまだ続くし、工事」
でしょうなぁ。と思いながら、ため息をつくと、外で、
「あら、東川の旦那さん。こんにちは、今日はどうしたんですかぁ?」
と西川さん(我が家の西側の音鳴り・仮名)妻が大げさに声をかけた。
「はぁ、まぁ。あ、どうも」
旦那同士は別に競争意識はないようで、妻同士の行き過ぎたこの邪魔くさい対抗意識に参っているようだった。
西川さん妻も、かなり大きい箱を持っているが、どうも、中身一緒のようだ。多分、石鹸セット。箱入り粉石けん二箱、液体洗濯洗剤詰め替え四袋、のセットだろうなぁ。近所のショッピングセンターで作っている贈答用セットの中で一番高いやつ。同じ包装紙で、同じ大きさの箱なら、多分、そうだろう。
あたしは笑顔を見せて、両方から受け取る。
「いやいや、ほんと。助かります」
「うるさくてごめんなさいねぇ」
笑顔がひきつる。
妻同士はさっさと帰っていったが、旦那同士が、あたしに会釈をし、あたしも会釈を返し、旦那同士苦笑いで会釈をして帰っていった。
仲悪すぎる。
よくご近所のままでいられる。と思うが、引っ越す理由は、双方ないわな。向こうが引っ越せばいい。と思うよな。
居間の開け放した窓から風が入ってくる。ビールの体に水滴がたまってる。あたしはそれを冷蔵庫に片付け、ため息をついた。
ほのかに香ってくるフローラルブーケ(笑)に、箱を開ける。
さすがだ。おんなじもの。大奮発したなぁ、あの奥さんたち。うちに、一番高い、4000円の石鹸セットだって(笑)これで当分、石鹸買わなくて済むんでいいわ。
あたしは思わぬ副産物を棚に並べながらほくそ笑んだ。
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