第4話 意識高い系ママさん

 午後二時を回ると、幼稚園に通わせていたママ友たちは子供連れで、保育園は迎えに行く前にお茶をするようだ。

 子供のテンションは異常で、「うるさい」の一言に尽きる。あたしは子供が嫌いだ、うるさいし、汚いし、とにかく遠慮がない。

「あのおばちゃん、一人だね」

「しっ。聞こえるから。一人でこなきゃいけない人もいるのよ」

 知ってる? それ、説明になってませんよぉ。

 ともかく、うるさい子連れのママ友さんは一応邪魔にならないように一番奥へ行くけど、それはそれでうるさいのだ。

 子供は一番奥なら迷惑かからないわよね。という親の言葉に甘えはしゃいでもいいと勘違いする。できることなら、入り口側に座り、うるさくしたら即出ていく。そのために入り口の近くよ。と言えば、多少静かにしてくれるんじゃないか。と思うんだが。まぁ、他人の子供の教育方針とやらに口出すほど偉くないので、気にしないようにしよう。

 と思ったが、どうも、「あたし意識高い系です」というママさんがいるようで、

「あの人、一人でファミレスってどうなの? あたしなら無理。だって、みんな誰かと来てる幸せの空間じゃない。なのに、そこへわざわざ一人で来る?」

 ……どうでもいいが、声でかい。

 あとの二人は小声で、「そういう人もいるって、仕事のついでに寄っただけかもしれないじゃない、」となんとか言ってくれているが、

「そう? だって、あれ普段着じゃない。てか、あんな服とかで仕事って何やってんだか」

 という。

「それに何かしてます的な感じだけど、どうせ、求人誌とか読んでるのよ。いやぁねぇ、あの年で仕事探さなきゃいけない独り身って」

……うーん。他人の口って、面白いほど外れているようだ。ということは、あの兄ちゃん、予定がキャンセルしてがっくりきてたようだけど、就職面接だと勝手に思っているが、あれも違うのかも。

「あたし、何してるか見てくる」

「やめなって」

「大丈夫よ、ドリンクバー、ドリンクバー」

 丸聞こえで大丈夫も何もないのだが、とりあえず私はテキスト(棒通信講座)の表紙をあえて表に置き、びっしりと書いたページを開いて、勉強してますていを装った。

 横を通るとき、ふわっとゆっくりとした甘いにおいが通った。明らかにのぞき込んでいる。あたしが顔を開けると、何食わぬ顔でドリンクバーへと行き、

「あんたは、ほら、オレンジジュース」

 と子供にコップを差し出している。

 そそくさと帰っていき、

「なんかね、なんか、マネージメントとかって書いてた。マネージメントって、マネージャーだよね? 何のマネージャーになる気なんだろうね? サッカー? 野球? てか、いくつよ、ネェ」

 あたしは片方の眉を上げた。驚いた。マネジメントという言葉がほぼほぼ当たり前になってきていると思ったが、そうではない人もいるようだ。ただ、彼女以外の声がしなくなったので、あとの二人がどんな顔をしているのか見たくなった。

 ドリンクを取りに行くついでに顔を上げてみれば、あとの二人のしらけた顔。

 意識高い系のママさんはとりあえずはずれのない話をしているが、大幅にずれた感想を言っている。

 さすがにそれはどうなんだ? と思ったのか、早々に二人が立ち上がったのでお開きになったのだが、あたしも、これから続くであろう付き合いに、応援したくなった。

「チャイルドシートってうざくないですかぁ? 乗せるときも面倒だし、第一子供嫌がってうるさいし、それがぁ、この前、つかまって、警官暇すぎて笑ったわ。いちいち子供が大事ならとかいうんですよ。もう、あたし、チョー運転上手いっていうのに」

 彼女たちが店を出てしばらくして、ものすごい音がした。レジの目の前は外が見えるようにガラス張りで、そのレジに立っていたバイトの彼女が、

「あぁ、ぶつけちゃってるぅ。あの派手なママさん、運転へたくそ」

 と笑ってた。

 子供、大事なら、ちゃんとチャイルドシート乗せたほうがいいよ。あんたの運転じゃ、明日をも知れない命かも……。

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