第4章

【主人公視点】

 クレスを出た。辺りは広野が続き、草花が一面に生えていた。僕は木陰に腰を下ろして息を整えた。

 

 疲れた……。もう、走りたくない。


 あの場所から逃げることが出来ただけでも十分なのに、さらに追ってくるであろうティルから逃げなければならないのだ。

 しかし、自分はこの世界の地図を持っていないため、正直どこに行けばいいのかが分からない。


と、そのとき、「ガァルルルル…」という音が聞こえた。



 僕は慌てて、その音がする方向を見る。

すると、僕の二倍以上の体格を持つ茶色の狼がいた。


僕は恐くて身体が動かなくなってしまった。

狼は木陰にいる僕を狙い、突進してきた。「喰われる!」と思った瞬間、


?「斬り裂けっ!サンダーボルト!」

 狼は、焼き焦げて跡形もなくなっていた。



しばらく、狼の様子をボーっと見ていると、

?「おい、大丈夫か?」

と、頭上から声がしたので、目線を向けると

?「俺、不知火 煉(しらぬい れん)!煉って呼んでな!…それにしても、危なかったな。大丈夫か?」

僕「うん、助けてくれてありがとう」

煉「君は?」

僕「?」

煉「ほら、名前だよ、名前」


僕「(本名を言ってしまえば、ティルの所まで連れて行かれるかもしれない。だから、偽名にしよう……)

  …悟、本條 悟(ほんじょう さとる)」


煉「悟かぁ~。いい名前だな。

  そういえば、君のお父さんやお母さんは?」

僕「僕が三歳の頃に事故で死んだ。父も母も」

煉「…そっか。ごめんな。実は、俺の親父やおふくろももういないんだ」

僕「えっ、煉さんもなんですか!」

煉「その、『煉さん』って呼ばれるの大嫌いなんだよな」

僕「ご、ごめん…」

煉「ははは、君は面白い奴だな!」

僕「そ、そう?」

煉「ああ。実に興味深いよ。そうだ!このまま町に行って、朝飯でも食べようぜ!」

僕「え?なんで分かったの?」

煉「男の勘ってやつさ。さあ!いこうぜ」


〝不知火 煉が 仲間に 加わった!〟


 こうして、僕と煉は移民の町ニーデベルグに辿り着く。



煉「着いたぜ。ここが移民の町ニーデベルグだ。主に異世界からやって来た奴らばっかだから、この辺では『余所者よそものイジメ』が少ないんだよ」

僕「『余所者イジメ』ってどんな?」

煉「うーん。簡単にいうと、窃盗とか集団暴行とかな。

  とても、人間のすることじゃねーな」

僕「僕もそう思ったよ。酷い」

煉「話はこれぐらいにしておいてよ、そろそろ食堂に行こうぜ。俺、腹減った~」

僕「ああ、うん」


 僕達は町の食堂へと向かった。



午前八時半。食堂では殆どの人が食事を終えていた。

錬は食堂の方に声をかけた。

煉「おばちゃ~ん、いつもの大盛り二人前!」

食「アンタ、そんなに食べられるのかい?

  おや、その人は確か城下町クレスの…」


僕「(やばい、僕の正体がばれる!)」

煉「こいつは俺のダチだから、こいつの分も含めてお願いするぜ」

僕「(煉、ナイス!)あの…僕、主食は食べられないので、代わりに果物類はありますか?」

食「主食が食べられない?アレルギーでもあるのかい?」


僕「(ここでミスったら終わりだ。アレルギーはないが、あるということにしよう)はい。実は、小麦と蕎麦アレルギーなんです」

食「じゃあ、ご飯は大丈夫じゃ…」

僕「いえ、ダイエットをしていますので」

煉「という訳でよろしくな、おばちゃん。

  あ、俺もデザート食いてぇ。なんかある?」


食「まったく。私は主食を食べられないっていうから驚いただけだよ。体質の問題なら仕方がないわね。ほら、あっちにメニュー表があるから、見ておいで」


 こうして、無事に僕の正体がばれずに朝食を食べることができたのであった。



 午前九時半。この町の領主の家に訪れた。

領「ようこそ、移民の町へ。私は、この町を治める領主であります。この町はどうですかな」

煉「ちゃーす。うーん、もっと近代的なm」

?「何言ってんのよ。そんなの無理に決まっているじゃない!」


僕「…あの、貴女のお名前は?(気の強そうな女性だな…。でも、何故か気になる)」

?「私?そういえば、まだ名乗っていなかったわね。

  私はエレシア・ニーデベルグ。アンタは?」

領「こら、エレシア。お客様にそのような態度で接してはならないと散々言っただろう。…すみません、旅の方。娘の無礼をお許しください…」

僕「いえ、お気になさらないでください。僕の名前は……本條 悟です。一つ気になることがあるのですが……」

領「何でしょうか」

僕「エレシアさんと煉って知り合いなんですか」


煉&エ「!」

領「はっはっはっ、実に驚きましたぞ。まさか、初めてお会いした方に私達の関係が分かるとは。まるで、最近この世界に舞い降りた勇者様のようですなぁ。いいでしょう。お話いたします。少し長くなりますが、構いませんかな」

煉「おじさんの話は長いから、断った方が良いぜ悟」

エ「そうよ、パパの話は長いんだから!」

僕「いや、聞きたいです。お願いします」


と言って、僕は九十分くらい話を聞かされた。

 その中のほとんどがニーデベルグ家と不知火家の話

で、僕には全く関係のない話ばかりだった。


 しかし、最後に聞いた話に衝撃を受けた。それは…


僕「『魔王は二人いる』?」

領「はい。この目で見たんです。間違いありません!」

煉「おじさん、そいつらはいつ見たんだ?」

領「二十年程前、私は商人でした。季節は夏だったと思います」

エ「場所はどこなのよ」

領「コディアスの森です」

僕「コディアスの森?(そういや、ティルの話にもあったような…確か…)」


領「バーシー族の住むバシエダニの村の近くにある森です。バシエダニは、呪われた地で簡単に立ち入ることができません。しかし、コディアスの森から商人が出入りする抜け道があります」

煉「あの辺の敵って滅茶苦茶強いのに…、おじさんはどうやって村に行ったんだ?」

領「実は、コディアスの森を抜ける前に休息ポイントがありましてな。なんと、そこから移動魔法を使ってバシエダニに行けるんですよ」


エ「パパ、その場所を教えて!!」

領「エレシア?ま、まさか、そこに行きたいのか?」

エ「ええ、そうよ。お父様」

領「駄目だ。危険すぎる!」


エ「お父様。私はもう子供じゃないわ、『十八歳の女性』よ!アンタに止める権限なんて存在しないわ!」

領「エレシアっ」

エ「それに、この二人も連れて行くから」


僕&煉「へ?」

エ「良いわよね、二人共?」


僕&煉「は、はい…((逆らえ〈ない…/ねー!〉))」


〝エレシア・ニーデベルグが 仲間に 加わった!〟


エ「これで、教えてくれるわよね?お・と・う・さ・ま?」


領「…やれやれ、仕方のない子だな。エレシア、戸棚にしまってあるファイルを持ってきなさい」


エレシアが無言でファイルを領主に渡した。ファイルには絵や写真が沢山入っていて、その一つ一つが日付毎にファイリングされている。領主は、絵を一枚取り出して、ファイルを閉じた。


領「これは、この世界の地図です。まだ行っていない場所もあるので、全部ではありませんが…。良かったら、お受け取りください」

僕「え!?そんな、いいんですか!?(地図を持ってなくて元の世界に帰れなかったから、良かった!)」

領「はい、どうぞ。…で、場所の方はと言いますと…」



 領主は地図にかいてある文字を人差し指で辿り、

「二ノ国」を指した。

 次に、「二ノ国」の中を辿り、「吾妻ノ都」を指した。

 最後に、「吾妻ノ都」から南に辿り、

「貝洲」と「石埜真城」を指した。



領「今のルートで行ってください」

エ「ちょっと、メモメモ!」

 エレシアは、慌ててメモに書いた。

煉「何日くらいかかりますか」

領「最低でも四、五日はかかると思います」


煉「だってさ、どうする?」

エ「でも、行くって決めたし、行くもん!」

煉「だそうです」

領「はぁ、本当に困った子だ…。皆さん、どうか娘のこと、宜しくお願い致します」

僕&煉「分かりました…((これからが大変だな…))」















エ「ねえ、パパ。私けど大丈夫かな?」

僕「そういえば、僕も武器を持っていません…(あの青いジェルと戦った時【第一章 最後 参照】も素手だったし、それ以外の敵と戦っていないし…)」

煉「俺の魔法剣も新しいのに換えたいな」




領「…分かりました。全部、購入します」

 こうして三人は領主からの支援金で旅支度を整え、武器も装備して目的地へと向かった。






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