第3章~上~

 そして、夜が明けた     


 【主人公視点】

 朝だ。小鳥たちのさえずりと共に僕は目を覚ました。

 (ふぁー。よく眠れた。ん?そういえば、ティルは?)

ティルの姿を捜したが、いなかった。しばらくすると、階段から物音がして様子を見れば、ティルがいた。


 (一階に降りていたのか。どうりで捜してもいない訳だな。でも、何しに行っていたんだろう?聞いてみようかな)


〔ここからは会話文が続きますが、主人公(僕)=僕、ティル=テ、宿屋の主人=宿と表記します。以降登場する人物達も会話では頭文字一文字で表記します〕


僕「おーい、ティルー」

テ「!」

僕「何驚いてんの?」

テ「いえ…。貴方に名前を呼ばれたことがなかったので、その…何というか…」

僕「いいじゃん。別に名前で呼んでも!それよりもさー、一階で何をしていたの?」

テ「旅支度を整えていました」

僕「へ?(今、なんて言った?)」


テ「旅支度を整えていました」

僕「それじゃあ、この町に来た意味ってあったのかよ(無かったって言ったら、ぶっ飛ばす)」

テ「ありましたよ。丁度、武器を調達したかったんです。ほら、いつまでも素手じゃ心許ないでしょう?」

僕「武器?」

テ「はい。本当はもっと強い装備を買いたかったのですが、貴方に合わない装備だとかえって逆効果になりますので、かなり時間がかかりました。」

僕「それは、ここ以外の町ではだめなのか?(たしか、僕が前にプレイしていたゲームの世界ならば、他の場所でも買うことができたはず。この世界では違うのかな?)」

テ「いいえ、他の町や村でも買うことはできます。しかし、そういう地域での武具や道具の中には偶に不良品が存在するのですよ」


僕「不良品ってどんな?」

テ「主に部品の不具合や劣化しているものが殆どで、偶に呪いのかかった装備が売られていることもありますね。その点、城下町や王都などの都市では、物品の出入りには厳重なチェックが行われているため、そういったものが入りにくく、安全なんですよ。また、村の方に行くことがあれば、見に行ってみると良いですよ」

僕「(話が進みすぎてよくわかんないけど)呪いにかかったら、どんな感じになる?」

テ「そうですね…。呪いといっても種類が多く、とても説明できるものではありませんが、共通点を挙げるなら、呪われた武具を装備したらその装備を外すことができません。過去に聞いた私の知人の話によると友達が呪われた兜を装備して取れなくなってしまったみたいですよ」

僕「えっ、じゃあそれってもしかして…」

テ「はい、その方は亡くなられたそうですよ。

  原因不明の高熱と頭痛にうなされたそうです」


僕「呪いを解く方法って無いの?(これ以上他の人を犠牲にしないためにも…)」

テ「ありません」

僕「そう…(そうか、やっぱりないんだ…)」


テ「でも、呪いを消すことはできます」

僕「!」

テ「教会の神父や神官に頼めば呪いを消すことは可能です。しかし、身体の中に入ってしまった呪いを解くのは、かなり困難なのです…。なので、呪いにかかったらいち早く呪いを消すことが重要です」


僕「そ、そっか。そうなんだな(だめだ、ちゃんと笑えているかな、僕)」


テ「無理して笑う必要はない******」


僕「!(ティルが僕の名前を呼んだ!?)」

テ「貴方が苦しむ姿を…もう見たくないんです」

僕「(どうしてだろう。この人がとても悲しそうに見える…それに『もう』って)」


テ「それに貴方には自分の心を偽らないでほしい。ありのままの自分をさらけ出してほしいのです。」


僕「(ありのままってなんなんだよ…ありのままに生きることができたら後悔なんかしないのに)あんたに僕の何が分かる訳?もう、いい。僕のことなんか

ほっといてよ!」



 僕はティルから逃げた。ティルは何かを話していたけど、僕はそれを聞かずに宿屋を出た。


 結局、僕なんていらない存在なのだ。

昔からそうだった。両親が事故で亡くなってからはずっと一人で生きてきた。児童相談所にいたときもあったか。

 でも、小学校入学前に僕は児童相談所から出た。それ以来、本当は叔父が保護者だけど、叔父は僕のことをあまりよくおもっていないみたい。多分、実の息子でもない僕を育てることを毛嫌いしていたのだと思う。

 それに、叔父には小学二年生の娘と三歳の息子がいた。ただでさえ、自分の子どもたちのことで精一杯なのにそこに僕まで加わるのだ。だから、叔父は何も悪くない。

 叔父に迷惑を掛けた僕が一番悪いのだ。いや、迷惑を掛けたのは叔父だけじゃない。僕が関わってきた人たち、すべてに迷惑を掛けているんだ。これは、両親を亡くしてからいつまでも消えることのない僕の思いだった。


 あの日から、人と関わることを拒むようになった。

僕と関わりをもつことは誰かを不幸にさせることだから…。友達も作ろうとはしなかった。ただ、僕はみんなが笑ってくれさえすればよかったのだ。僕以外の人の前で。


 だって、僕にはその笑顔はもったいなさすぎるし、それに対する返事すらできない人間なんだ。


 正直、この世界にも行きたくはなかった。というか、無理矢理ティルに連れてこられたからな!自分の意志ではないよ!〔第一章の最後 参照〕

 僕も未知の世界に行くからドキドキワクワクしていたところもあったのは、認めたくないけど……認める。

 この世界があまりにも僕が父とプレイしていたゲームに似ているんだ。言いたいことは分かるでしょ?


 リセットできると思ったんだ……人生を。

   

 でも、実際にはそんなことできるはずがなかった。

その証拠に僕は最初に遭遇した魔物からの傷が身体に残っている。昨日、風呂に入らずに寝たのはそのせいだ。いつもなら、いくら疲れているとはいえ風呂ぐらい入って寝る。でも、それができなかった。今も確認すると残っているはず……あれ、ない。


 おかしいな。昨日まであった傷がまるで初めからなかったかのように消えてなくなっているのだ。そういえば、ティルが宿屋の説明をしてくれたな…なんだったっけ?



 と、考えている時間もない。今、ティルから逃げているのだ。とりあえずクレスから離れよう。話はそれからでもいい。逃げるのが先だ。


 僕は城下町クレスの門をくぐり抜けようかと考えていた時にそれは起こった。


 なんと、衛兵が見回りに来たのだ。これでは、抜け出すことが困難になってきた。そもそも、一体誰が衛兵を呼び出したのだろう?もしかして…


テ「私が呼び出しましたよ。さあ、出てきなさい」

僕「うわぁ!」


僕の背後から声がして、慌てて振り向いた。

すると、ティルがいた。僕は後ろに後ずさると、方向を変えて逃げた。衛兵が後ろにいたからだ。まさに、挟み撃ち状態だったが、僕は城下町クレスから逃げ出すことに成功した。自分でもどうやって逃げたのか覚えていない。とにかく、必死に逃げたのだ。





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