① 読者の感情が同一の方向に振れやすい素材

 読者の感情を同一の方向に振るためには、読者を共感させることが何よりも重要である。

 人間にはミラーニューロンという神経機関が備わっているのだが、視覚や聴覚から取り込まれた情報がここに投影されると、それがあたかも自分自身の体験であったかのように疑似体感として再生される――最近ネットで話題になっていた共感的羞恥のメカニズムである。

 もちろん羞恥だけではなく、喜怒哀楽のすべてが共感として存在する。

 ところで、先に感想とは読者からのレスポンスだと書いた。ということは、読者がレスポンスを返す――つまり発言したくなるように仕向けることが感想をもらう一番の近道だとご理解いただけるはずだ。その時に一番の武器となるのがこの『共感』である。

 日常の会話で例えるなら、道端で会話しているマダムを思い浮かべてみよう。マダムたちは実に取り留めなくダンナの愚痴や姑がいかに非常識かなど話している、そのそばに行って聞き耳を立てると、かなり高確率で「わかるわかる、うちも」という言葉が聞こえるのである。小説のテンプレのようだが、本当の話。

 たとえ言葉や状況が違っても、レスの発端が「私も」であることは、実は多い。これを意図して言わせてしまおうというのが今回の目的である。

 枕詞が「私も」であるならば、相手が自分の体験として持っているネタを振ってやるのが一番手っ取り早い。もしくは自分にも可能性のある体験として追体験できるもの、つまり、ここでいかに共感性が高いものをネタとして提供できるのかが重要になる。

 例えば架空の世界を描く創作であっても、この共感をどこにどれだけ置くのかが感想の書きやすさを左右する。異世界を書こうがタイムスリップを書こうがそこに共感をもたらす描写があれば、読者はそれを架空の追体験として楽しむことができるのである。

 ただしこの時に発生する感情が「面白かった」「ドキドキした」などの単純感想である場合、今度はこれを書き起こすのに『感情の理由』を探す必要があるため、せっかく下げた感想のハードルが再び上がってしまう。

 だからこそ感想の書きやすい『ネタ』を。

 ネットの読者はいい年をした大人が多いため、人生の辛酸を多かれ少なかれ舐めてきた人たちである。ネタによっては「私もねえ」の後に自分の苦労話などを始めてくれるので感情の理由を探す必要がなくなり、気軽に感想をつけやすくなるのだ。

 さて、具体的に感想をつけやすいネタとは何であるかの例を。

 ネットではジャンルや時代ごとに鉄板ネタというものがある。古くケータイ小説時代であれば好まれたのは『セックス・ドラッグ・自傷』であった。今どきのネット小説ならば『異世界・転生・ハーレム』だろうか。

 最もこれは娯楽性を考えたときの鉄板であり、感想を書かせるという目的にはふさわしくない。感想をもらうために書く鉄板ネタは『死にネタ・病気ネタ・動物』だ。

 なぜ断言するかというと、実際にそうした作品は多く読者からのレスがついているからである。

 死は身近なものであり、自分が親しい人を亡くした時の悲しみなどに重ねてみることができるために、共感性が高い。病気も同じく。

 動物に関していうならば、世の中には動物嫌いな人というのも少なくはないのだが、総じて『動物は嫌いではない』という人のほうが多いものである。よって共感を得るためには使い勝手のいい素材であるといえよう。

 ランク外として『あの時代は○○だった』ネタであれば同世代の共感を得やすいであろうし、『あのゲームは○○』ネタであれば同じゲームをプレイした人が「私も」と手をあげることだろう。大事なのは共感してくれる人の多いネタであること、ただそれのみ。

 さて、せっかく選んだネタも書きようによっては読者が反応しにくいものとなる。ここまでで準備できたのはあくまでも読者からの最初の一言である「私も」を引き出すためのもの。

 この「私も」の後ろに続く言葉をうまく引き出すためのコツを、次回はお伝えしようと思う。

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