少年期[1045]どっちもどっち

ブラッドタラテクトを討伐後、ちょっとした冒険者と魔塔の人間とでいざこざがあったものの、ゼルートたちは無事その日の内にバディスタへと戻った。


そして冒険者ギルドに直行し、依頼の達成と解体を頼む。

アイテムバッグの中にはブラッドタラテクトの死体だけではなく、ブラッドタラテクトが生んだ子蜘蛛たちの死体もあるため、多数の解体士たちが解体作業へと取り掛かった。


「ゼルートさん」


「? なんですか」


「彼等の話を聞かせていただきました。彼らと、魔塔の魔法使いの間に入って頂き、本当にありがとうございます」


一人の受付嬢が、同じく冒険者ギルドに戻ってきた冒険者たちから話を聞き、直ぐにゼルートの元へと向かい、感謝の言葉を伝えた。


「あぁ~~、あれですか。なんと言うか、成り行き? でなんとかしただけなんで」


「それでも、私たちとしては魔塔と話が拗れずに済んだことに、心の底から感謝しています」


再度、受付嬢は深々と頭を下げ、ゼルートへ感謝の言葉を伝えた。



「確かに、良い仲裁だったわね」


受付嬢が去った後、アレナは改めて良き仲裁だったとゼルートを褒めた。


「そうなのか? 俺としては、思った事を伝えただけだけど」


「ゼルートにとってはそうかもしれないけど、本当に良いやり方……伝え方だったと思うわ。まぁ、ゼルートだから出来たと言えるかもしれないけど」


現在ゼルートは冒険者として活動しており、ゼルート本人はそこまで冒険者らしいプライドなどは持っていないが、冒険者たちが一定のプライドを持つ理由はある程度理解出来る。


そして、ゼルートは冒険者として活動しているが、同時に貴族の令息……貴族でもあるため、冒険者たちから権力者がどう見られているか、思われているかもなんとなく解っている。


そんな二つの立場を持っているからこそ、今回のいざこざを上手く仲裁出来た。


「ゼルートが強かったから、ブラッドタラテクトを討伐したから、一応引き下がったのではないのか?」


「冒険者たちからしたら、それはあると思うけど、それよりもゼルートがあなた達の気持ちは解ると伝えたからこそ、一応納得してくれたのだと思うわ」


「そういうものか……とはいえ、あいつらではブラッドタラテクトと一対一で戦ったとしても、それなりに危なかったのではないか?」


「それは…………そうかもしれないわね。魔法使いの……ガルモさんを戦力にカウントしたとしても勝率は……四割に届くか届かないかってところかしら。ゼルートはどう思う?」


「……俺もそれぐらいだと思う」


安全に勝てる、とはとても言い難い確率。


とはいえ、ゼルートたちの見立てはあくまで鑑定スキルなどを使わず、パッと視ただけの判断。

彼等が必殺の奥の手を隠していて、それを使えば更に勝率が上がった……という可能性もある。


「であれば、今回は一応冒険者側がやらかしたという事になるのではないか?」


「そうね……そこだけ見ると、そう思われてもおかしくないでしょうけど、以前起きた一件から、魔法使い本人が退こうと提案しても、戻ってきたらもしかして……っていう思いがあったと思うわよ」


「むっ……退いても地獄が待っているのであれば、挑んで散った方が良いと……そういう事か」


「あの人たちは散るつもりなんてなかったでしょうけど、結果としては……餌になりかけてたわね」


ある意味、ただ散るよりも恐ろしい最後を迎えたかもしれない。


「……つっても、魔塔の魔法使いたちからすれば、冒険者は適当な仕事をするって思われてるかもしれないし、正直……これに関してはどっちもどっちとしか言えないんじゃないかな」


「そうね。上手くやっていくには…………互いが互いに敬意を持って接していくしかないでしょうね」


アレナが口にした言葉が、割と心理ではあるのだが、実際に口にした本人も含めて、その場にいる全員……それは無理だろうなと思った。

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