少年期[1046]覗いた?

「ぷは~~~! やはり、エールは美味いな」


一仕事した……という程働いた感覚はないルウナだが、それでも依頼を終えて戻って来てから呑むエールはいつもと変わらず美味かった。


「そうね~~。魔塔の魔法使いを助けられたことだし、これでちょっとは良い印象を持たれるでしょうね」


アレナとしても、今回の依頼は色んな意味で悪くない依頼だった。


「仮に喧嘩になったとしても、ちゃんとした場で戦えば良いのではないか?」


「……まぁ、ルウナがそれを守って行動してくれるなら、私としては特に言うことはないわよ」


争いを避けられるのであれば、それに越したことはない。


過去に冒険者としてAランクに上り詰めたアレナだが、決して血の気の多いタイプではない。

ただ、それでもAランクまで上り詰めたことがあるからこそ、決して避けられない争いごともあると理解している。


「ほぅ…………急にどうしたのだ?」


「別に、どうもしてないわよ。ただ……避けられない争いっていうのを思い出しただけよ」


「避けられない争い……アレナを男たちが取り合ったり、か?」


「なっ!!?? なん、そ……」


「なんそ?」


なんでそれを知ってるの!!! と言いたかったアレナだが、思わず詰まってしまった。


「ふ~~~ん。まぁ、アレナならそういうイベントに巻き込まれそうだよな」


「はっ!!!???」


「アレナって、冒険者の中でも面倒見の良いタイプだろ。だから、慕われるのを越えてそういう意味で好かれそうだな~~って簡単にイメージ出来る」


「同感だな」


「…………」


仲間に褒められ、もうどういう反応をしたら良いのか解らなくなったアレナ。


「俺たちのどっちかが勝ったら、勝った方と付き合ってください、みたいな事を言われたんのか?」


「……もしかして、どこかで私の昔話でも耳にした?」


「いや、なんとなくイメージで口にしただけ」


当てずっぽうでその場の光景をイメージしたゼルートだったが、その内容はまさにドンピシャな内容であった。


「もしや、その男たちはアレナの答えを聞かず、勝手に戦い始めたのか?」


「…………はぁ~~~~~。ルウナ、あなた相手の記憶を読むスキルでも手に入れたの?」


「そんなスキルは会得してないぞ。ゼルートと同じく、なんとなく頭に浮かんだだけだ」


「……確かに、そういう事はあったわよ。でも、私が言いたい事はそう言うことじゃないの」


「そうなのか?」


「そうよ」


ゼルートとルウナとしては、アレナの珍しい反応を見て、もう少しその反応を楽しみたいと思ったが……一旦ストップした。


「まだ私がゼルートと出会う前の経験から、避けられない争いを何度か経験してきたの。それを、今日の冒険者たちと魔塔の魔法使いとの争いを見て思い出したの」


「ふむ。だから、私がいざとなれば喧嘩すれば良いと口にしたことに対して、いつも以上にあれこれ言わなかったんだな」


「そういう事。ちゃんとした場で叩きのめされたなら、向こうも何も言えないでしょうからね……多分」


「…………まだ、魔塔に所属する魔法使いの事は詳しく知らないけど、ルウナみたいなタイプに負けたら、逆恨みで夜襲とかしてこないか?」


物凄く偏見であることはゼルートも解っている。


だが、魔塔に所属している事に、自身が魔法使いであることに強い誇りを持っている様に感じる。


そんなイメージを感じさせる人間に対して、ルウナは魔力を使い、遠距離攻撃も行えるが……主な攻撃方法は打撃や双剣を使った斬撃。

ザ、近接タイプであるため、魔法使い以外を見下している者たちからすれば、そういった者に負けることは屈辱以外のなにものでもない……と口にするイメージを持ってしまっている。


「どうかしらね。魔塔にまともな人間が所属していれば、一定のレベルに達するまでは近接タイプには一対一で近接タイプには勝てないと教えると思うけど……それに、特に理由も無しに街中で魔法を放てば、それだけで大問題よ」


なるほど、それなら大丈夫か……と思えないのが、勘違いしたバカたちのある意味恐ろしいところ。


それは三人とも解っているため、とりあえずアレナとルウナは面倒な事を忘れる為に追加でエールを注文した。

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