少年期[1020]ハイペース?
「ふぅ~~~」
「……もしかしてさっきの質問、わざとあのタイミングでしたのか?」
「えぇ、そうよ。ゼルートなら無理矢理腕力で解決出来るのは解ってるけど、今は早く酒場で一杯呑みたい気分なのよ」
早く吞みたいから。
そんな尤もらしい理由を口にするアレナだが、ゼルートはパーティーメンバーから確かな気遣い、優しさを感じた。
「ふふ、ありがとな、アレナ」
「……どういたしまして。それじゃあ、早く行きましょう」
三人は従魔も店裏で待機できる酒場に入り、まずはエールと適当に肉料理を頼んだ。
「………………ぷは~~~~~。やっぱり最高ね」
「うむ、確かに最高の一杯だ」
女二人は仕事終わりに呑む至高の一杯を堪能し、まだ青年になっていない少年は肉料理にかぶり付いていた。
「それで、さ。なんだかんだで、ルウナはイレースタイガーとの戦い、楽しかったんだよな」
「そう、だな……スリルのある戦いだったと感じた。であれば、結果として楽しんでいたのだろう」
「だよな。そうなると……もう少し、滞在してても良さそうだな」
ゼルートはギルドのクエストボードに貼られていた依頼書を思い出す。
(Bランクモンスターの情報なら、まだいくつかあったんだよな……うん、まだ滞在する価値はあるな)
今度は自分も戦いたいと思いながら、ゼルートは料理を追加注文。
「オルディア王国にはない果実もあるみたいだし、そういった食目当てに行動しても良いかもしれないわね」
「ありだな」
本来の目的は大魔導士の杖を探すことだが、予定通り他の誰かが聞いている様な場所では、基本的に口にしない。
「まぁ……ある程度冒険したら、次は何処に行くかぐらいは決めといても良さそうだけどな」
「攻略し応えのあるダンジョンの情報でも集めておくか?」
「そうだな。階層数は……最低三十階層かな」
最下層が三十階層のダンジョンは、ルーキーたちが探索するようなダンジョンではなく、ベテラン……中堅レベルの冒険者たちが最下層まで挑むレベルの難易度。
とはいえ、ベテラン冒険者たちであっても、絶対に死なないという訳ではなく、十分死のリスクは付いてくる。
故に、女性二名と少年一人で攻略出来るものではない。
「そういえば……ゼルートって、ダンジョンを攻略する時にも面倒な人達に絡まれてたわよね」
「ん~~~? 絡まれるのはいつもの事だけど………………セフィーレ様たちど挑んだ時は、あれは俺じゃなくてセフィーレ様が絡まれたんじゃなかったか?」
「そうだったかしら? …………言われてみれば、そうだったかもしれないわね。でも、ちゃんと護衛としてゼルートが対処してたじゃない」
「あの時、ゼルートはバカ数人を上空に飛ばし、何度も何度も木刀? か何かで叩いてたな」
「そこまでやってたっけ?」
アレナとルウナは何度も頷いた。
やり過ぎ……とは言えない。
そもそも公爵家の令嬢をナンパするなど、殺してくれと……牢屋にぶち込んで欲しいと志願してるのと同意。
それをちゃんとポーションで治せる程度ににボコボコにした。
ナンパした冒険者たちからすれば理不尽だと叫びたいかもしれないが、そもそも明らかに平民ではないと、一般人ではない高貴なオーラを持つ女性に自信満々な態度でナンパするというのもおかしいと言えば、おかしい。
「そうよ。周りの人たち、ちょっと引いてたわよ」
「……ちゃんと仕事したってことで」
「ふっふっふ、間違ってはないわね。それで、今度またそういうパターンで絡まれたらどうするの?」
「さっきも話したよな? 腕か脚を斬って……あれ? そうか……そうだよな。さすがにギルドの訓練場とかじゃない場所だ、血が流れるのは不味いか」
「鼻血ぐらいが限界かしらね」
「やっぱそうか。んじゃ、やっぱり骨折が一番だ」
「ゼルートの場合、勢い余って折るのではなく、ぐちゃっと切断してしまいそうだがな」
既に三杯目のエールを呑んでいたからか、アレナもゼルートと一緒にあっはっは!!! と笑った。
そんな三人を見て……冒険者ギルドの時と同じく、周囲の客たちは大なり小なり引いてしまい、ダル絡みをしようという気持ちが完全に萎えてしまった。
(……俺の名前が少しでも広まってるから、か? 有難いっちゃ有難いけど……セパーティルって奴みたいな態度と実力が伴ってない奴じゃなく、ちゃんと強い人なら絡まれても良いかな……)
単純に強い相手と戦ってみたい欲が高まっていたゼルート。
そんな願いが通じたのか、後日……予想外の魔物と遭遇することになる。
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