少年期[1019]平然とした表情で
「買取りをお願いします」
採集した薬草を納品し、採集依頼の達成を確認してもらい、報酬金を受けったザハークは買取専用の列に並び直す。
その間、まだ日が明るい内にエルフのCランク冒険者、セパーティルを闘技場で瞬殺したという話も広まり、多くの視線を向けられていたが……無事、絡まれることはなかった。
「か、かしこまりました。少々お待ちください」
ゼルートたちが狩った魔物はイレースタイガーだけではなく、他の魔物も討伐していたので、そこそこ量が多い。
受付嬢が複数人で査定していく中、その内の一人がイレースタイガーの素材に気付き、思いっきり固まってしまった。
「? ちょっと、どうしたのよ」
「はっ!!?? え、えっと、これさ…………」
「っ!!!!????」
受付嬢から小声である骨や内臓などの招待を聞かされ、何故同僚が数秒ほど固まってしまったのか理解した受付嬢。
(このギルドで働いてる受付嬢たちは、結構教育されてる感じなのかな)
ゼルートとしては、もしかしたらイレースタイガーの素材に関して、うっかり口に出されてしまうかもしれないと思っていた。
だが、結果として受付嬢たちは驚きを顔に出しはしてしまうものの、なんのモンスターの素材なのかを口にしてしまうことはなく、査定を進め続けた。
「こちらが、買取金額になります」
「あざっす」
目の前に置かれた金額に納得し、ゼルートは直ぐに亜空間の中にしまった。
ただ、そもそも普通じゃない量を査定してもらったため、多くの冒険者の注目を集めてしまっていた。
その結果、多数の視線がゼルートの前に置かれた硬貨を捉えていた。
まず、子供が持つ金額でないのは確か。
普段であれば……ここでゼルートに対する嫌味がチラホラと零れる。
「そういえばゼルート、昼間あのエルフにバカ絡みされたけど、またあぁいうのが起こったらどうするの?」
「ん?」
突然の質問に何の意図があるのか把握出来なかったゼルートだが、ひとまずアレナからの質問に答えることにした。
「今回は腹を貫かない様に殴ったから、次は貫いて……いや、普通に死んじまうか。ん~~~……とりあえず、指をへし折る?」
「ゼルート、指をへし折るだけじゃインパクトが薄いのではないか」
「それじゃあ……引き千切るか。まぁ、別に指じゃなくても片腕や片足を一本スパッと斬れば、大人しくしてくれるだろ。綺麗に斬れば直ぐにポーションでくっ付けられるし……うん、どっちにするかは、その時に決めるか」
一応……一応、ゼルートは外見的に、まだ青年に成りきれてはいない。
そんな子供が、指を引き千切るなど、脚や腕を切断するなど、そういった話を平然とした表情で語っているのだ。
普通に考えて、まともではない。
もしという話の中で、引き千切ったり切断する相手は、迷惑な行動をする者ではあるが、山賊や海賊ではなく同じ同業者……冒険者である。
(な、なんだ……あの、子供は)
(貴族の令息、か?)
(っ…………あれ、が……覇王戦鬼、か……恐ろしいな)
ゼルートたちの会話を聞いていた者たちの中には、あの子供があのゼルートであることを知っている者もおり、平然と引き千切る、切り落とすという話をしているゼルートに恐れを感じずにはいられなかった。
ゼルートの実力に勘づくことは出来ずとも、会話から不気味さを……とにかく、普通じゃない雰囲気を感じ取れた。
(まぁ、そういう顔になるわよね)
アレナは結果として同業者たちがゼルートに対して嫌味や暴言を零さない様子を見て、ホッと一安心。
(でも、ゼルートからすると、穏便に済まそうなんて気持ちは……本来なら欠片もない状態になってても、おかしくないのよね)
出会った頃と比べれば、言葉で解決出来るならそうする。
本当に大人になったと、成長したなと感じるが……それでも、やはりストレスは溜まる。
まだ数年とはいえ、その様な環境に居続ければ、平気で自分にバカ絡みして来る相手の指を引き千切るか、それとも腕か脚を切断するかと口にするのは、寧ろ当然と言えるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます