兄の物語[99]時間の無駄

「もしこの後予定がないなら、このままコカトリスと戦う時の陣形でも話し合うのはどうかしら」


「良いね。今日は特に予定はないから、全然大丈夫だよ」


「俺もだ」


「俺もって……えっと、カルディア。あの女を放っておいて良いのか?」


バルガスの質問に対し、カルディアは苦笑いを浮かべながら答えた。


「大丈夫だ。あいつが出来る事と言えば、前に出て力尽きるまで戦い続けることだけだ。だから、話し合いの場にいてもいなくても特に変わらない」


それはそれでどうなんだとツッコみたいバルガス。


しかし、特攻隊長気質のバルガスから見ても、ジェリスがそれ以外の事を出来るようには思えなかった。


「それじゃあ、このまま始めましょうか。数は七人で、後衛が三人、前衛が四人……そこはとりあえず悪くないわね」


ミシェルもゼルートに出会った時に受けたアドバイスのお陰で、杖術の腕は並以上まで鍛え上げていた。

奥の手として身体強化系のマジックアイテムも持っているため……万が一の事態になったとしても、一人で戦うことは可能。


そして竜人族にしては珍しい魔術師として戦うカルディアだが、竜人族としての高い身体能力がないわけではなく、ミシェルと同じく杖術も使える。


最後の後衛、ペトラも弓をメインに扱うものの、短剣術や体技も扱えるため、後衛組に死角らしい死角はない。


「フローラはタンクとして動くから、実質的なアタッカーは僕とバルガス、ジェリスさんの三人になるね」


「……なぁ、カルディア。これまで一応他の冒険者たちと組んで活動はしたことあるんだろ」


「そうだな」


「あの女は、他の冒険者たちと連携して動けてたのか?」


「………………一応、本当に強い先輩からの指示には、従ってたかな」


カルディアの説明を危機、クライレットとフローラ、ミシェルは苦笑いを浮かべ、ペトラは大きなため息を吐いた。


「……実力がある分、質が悪いって感じね。でも、強いのは間違いないでしょうから……彼女の戦闘スタイルをもっと細かく解れば、なんとか出来そうね」


「ジェリスは基本的にスピードを活かして戦うタイプだ。ただ、そのスピードを活かして攪乱、死角に潜り込んで仕留めるような戦い方はほとんどしない」


「つまり、バルガスみたいに真正面から戦うのが好きなタイプということね…………ふぅ~~~~~。そうなると、クライレットとバルガスにはコカトリスの正面以外の部分を集中的に狙ってもらう方が良いかしら」


本当に面倒、一々喧嘩を売ってきてダルい。

ペトラから見てそんな印象が強いジェリスだが、私情を優先し過ぎてジェリスの強さが見えていない、なんて間抜けな失態は犯していなかった。


「あの女を中心として戦うってことか?」


バルガスはバルガスでジェリスの実力に関してはある程度把握していたが、それでもわざわざ自分やクライレットを差し置いて戦いの中心にする価値があるとは思えなかった。


「癪な気持ちは解らなくはないわ。でもバルガス……後三日間で、彼女とまともな連携が取れるようになると思う?」


「…………思えねぇな」


実際にジェリスの戦いっぷりは見ておらず、戦闘に関する協調性の有無もまだ確認していないが……それでも、まともに連携を取れるイメージが湧かない。


(少なくとも、俺は絶対に無理だ。クライレットなら器用に合わせそうだけどな)


ここ最近、多少なりとも技術面に力を入れているバルガスだが、クライレットほど器用に戦える自信はない。


「それなら、わざわざ無理に時間を使わない方が良いでしょう」


「はぁ~~~、そうだな。んじゃ、俺はコカトリスの……翼とか狙ってれば良いか?」


「それじゃあ、僕は脚を狙おうかな」


「……その辺りは、実際にコカトリスと戦ってみて、二人でその時々で決めるのが良さそうね」


この後もクライレットたちの作戦会議は盛り上がり、六人で昼食を食べに向かった。


当然……同業者に模擬戦を申し込まれ、訓練場で汗を流していたジェリスはそのまま放置。

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