兄の物語[98]ノイズは不要
「んじゃ、とりあえず三日後の朝十時……今日みたいに、ちゃんと時間前に集合しとくんだぞ」
諸々の説明を終えた後、ガンツは最後に絶対に遅刻だけはするなと伝え、部屋から出て行った。
「「「「「「「…………」」」」」」」
部屋に残されたクライレットたち。
本来であれば、共に試験を受ける為、もっと色々と互いのことを話し合うのだが……主にジェリスのせいでそういった雰囲気ではなかった。
主な要因であるジェリスに関しては、これ以上なにか喋ればまたカルディアから杖を頭に振り下ろされると思い、完全にチャックを占めていた。
「とりあえず、改めて自己紹介しようか」
「……本当にすまない。そう接してくれて、助かるよ」
「大丈夫だよ。色々と慣れてるから。それに……二人も、それなりに経験がある方なんじゃないかな」
「そう、だな…………だからこそ、このバカにはもう少し節度を持ってほしいんだがな」
ジロリと睨まれ、慌てて眼を晒すジェリス。
「僕はクライレット。メインで使う武器は細剣で、使う魔力は風が得意だね」
「俺はバルガスだ。体術で戦うのが一番得意だけど、一応双剣も使えねぇこともねぇ」
「私はメリルだよ~。ハンマーだったり、大斧を使うのが得意だよ。魔法は土なら使えるよ」
「……ペトラよ。扱う武器は主に弓と短剣。一番得意な魔法は風ね」
人によっては、殆どがアタッカーであり、パーティーバランスが悪い様に見える。
だが、カルディアはしっかりと……四人のある程度の力量を見抜いていた。
「俺はカルディアだ。竜人族ではあるが、魔法をメインに戦う魔術師だ。状況に応じて攻撃と防御を分けて戦う」
「…………」
「……ジェリス」
「わ、分かったっての!!!」
振り上げられた杖を見て、ジェリスは慌てて自己紹介を始めた。
「ジェリスよ。武器は鉤爪による攻撃よ」
マジックアイテムの手甲を身に付けているため、普段は刃が飛びてておらず、収納された状態となっている。
「最後は私ですね。カルディアさんと同じく、魔法主体で戦います。防御系の魔法よりも攻撃系の魔法が得意です。一番得意なのは水魔法ですね」
無事……一応無事、全員自己紹介を終えた。
すると、ジェリスは勢い良く立ち上がり、速足で教室から去って行った。
「……まぁ、良いか」
「えっと、放っておいて良いのかな?」
「あぁ、特に問題無い。迂闊に喋れば、また俺に杖で叩かれると解ってるからこそ、速足で何処かに行ってしまっただけだ。おそらく……訓練場にでも行ったのだろう」
「あなたも大変ですわね。あんなじゃじゃ馬とパーティーを組んでると」
喧嘩を売ってる、と思われかねない発言。
後々、さすがに刺々しい言葉だったかもしれないと反省するペトラだが、本気でパーティーメンバーであるバルガスを越えるトラブルメーカーと出会ってしまい……がっつり本音が零れてしまった。
「そうだな。俺自身もそう思っている。ただ、それでも戦闘になれば頼れる相方なのは間違いない」
二人は既にパーティーを組んで数年が経っている。
その際、時折同年代の冒険者から自分たちとパーティーを組まないかと誘われることがあったが……全て断ってきた。
主に即答で断っているのはジェリスだが、お断りの気持ちはカルディアも同じだった。
理由は単純明快……二人の実力に付いて来れる同世代の者がいなかったから。
パーティーの人数というのは戦闘において非常に重要な要素だが、カルディアとジェリスは二人という少人数でありながら……既にパーティーとして完成していると言っても過言ではない。
そんな中に中途半端な実力を持つ者が入ってきても、二人にとってはノイズにしかならない。
(もし、パーティーを組むなら……クライレットたちの様な者と組みたいものだな)
出会い頭で相方が悪い印象を与えてしまったため、無理と解っているものの、一度はその未来を考えてしまった。
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