兄の物語[97]十年後も同じ

「顔に緊張が走ったようでなによりだ。お前らが若いくせに強いのは知ってるが、バジリスクはクソ面倒な魔物だ」


過去に一度……Cランク冒険者時代にバジリスクとの戦闘経験があるガンツ。


魔物は物理攻撃や斬撃、攻撃魔法を使う個体の他にも、対象を状態異常にする攻撃方法を持つ個体も存在する。


そんな状態異常攻撃の中でも、オーソドックスな攻撃が毒や麻痺……もしくはデバフ効果。

全体で見ればそこまで多くはないが、一般的な状態異常攻撃はそういった内容のものが多い。


しかし、石化という状態異常攻撃を持つ魔物はそう多くない。


(ありゃ俺が見た光景の中でも、嫌な意味でトップ五に入る光景だったな……)


バジリスクは人間だけではなく、木々や草、地面すら石化することが出来る。


「お前ら、それなりに金は持ってるだろうから、予備の武器とかちゃんと用意しておけよ」


「ガンツさ~~ん。それって、ガンツさんの経験談っすか~?」


「いいや、俺じゃなくて俺の知人の体験だ。勿論一定の魔力を纏っていれば防げる場合もあるが、結局のところ当たらない、もしくは石化のブレスを出させないってのが一番だ」


基本的にバジリスクが放つブレスは液体状であるため、冷静に見極めれば避けられないことはない。


だが、それでも食らえば一気に形勢を崩される場合もある。


「……やっぱり面倒な相手ね。クライレット、私はブレスを出させない様に動いた方が良いかしら。それとも、ブレスに備えておいた方が良いかしら」


「そう、だね…………難しいね」


後半歩でザ・一流と呼ばれる領域に弓術の腕が届くペトラ。


その腕から放つ矢で、バジリスクのブレスを妨害することは出来る……しかし、バジリスクは決してスピードに特化したタイプではないが、それでも遅くはない。


矢で牽制し続けるのか、それともブレスが放たれたタイミングで突風を発動してブレスがクライレットたちに当たらない様にするか……バジリスクという魔物をしっかり脅威だと認識しているからこそ、無理に二つともこなそうとは思わなかった。


「どっちもすれば良いのに。もしかして出来ないの?」


「…………悪いわね、バルガス」


「へ?」


いきなり普段は文句しか言わないパーティーメンバーから謝罪の言葉が飛び出たため、思わず変な声を零してしまったバルガス。


「この子はあなたよりよっぽどバカだったわ」


「なんぎっ!!!!!!??????」


ジェリスが椅子から立ち上がろうとした瞬間、再び固い杖が頭部に振り下ろされた。


「~~~~~~~~~~っ!!!!????」


思わず転げ落ち、頭を抑えながら床にうずくまる。


先程の一撃よりも更に力が籠っており、意識外からの一撃はジェリスに大きなダメージを与えた。


「な、なにすんのよ!!!!!!!!」


「さっき注意したばかりだろう」


「あんなの、挨拶みたいなもんでしょ!!!!」


「俺たちに喧嘩を売る様な感情を向けてきてる相手にならともかく、彼らは違うだろう。競争心が成長を促すことはあるかもしれないが、お前のは単なる挑発だ」


「ぐっ!!!」


「そして、軽く流されてカウンターを食らったからといって、暴れようとするな。それこそ、ただの暴力になるだろう」


「………………」


今回もカルディアが制裁を与えたことで、バルガスやクライレットたち何もすることなく平和的に? 解決された。


(多分、今日が初めてとか、偶にとかじゃないんだろうな……でも、だからこそ長続きしそうな感じがするね)


冒険者になってから最初に組んだパーティーが最後の最後まで続くというのは稀も稀であり、戦闘でメンバーが亡くなったといった理由以外にも、方向性の違いや性格の不一致などでパーティーを抜けたり解散することは珍しくない。


だが、クライレットの眼には……十年後も似た様な事を繰り返してる二人の姿が映っていた。

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