兄の物語[96]する奴はする
「確かに多くのCランク魔物やBランクの魔物と戦ってきた。だが、今の俺たちでAランクの魔物と戦えるか?」
「むっ…………」
Aランクの魔物。
まさにザ・怪物と呼べる相手と戦える力が、今の自分たちにあるのかと問われ……ジェリスは思わず言葉に詰まった。
「そういう事だ。全く……すまないな、うちのバカがバカな発言をして」
「いえ、大丈夫ですよ。確かにうちの特攻隊長と比べたら僕はヒョロい方なんで」
ヒョロい見た目をしているという自覚はあるクライレット。
そんなクライレットの対応に有難いと思いつつ……カルディアはそのヒョロい、という言葉に嘘を感じた。
(確かに虎の獣人族である彼の方が逞しい筋肉を持っている、しかし……だからといって、リーダーの彼が本当に身体能力が高くないとは思えない)
なんなら、カルディアはクライレットから武闘家に近い空気すら感じていた。
「お~~~し、ちゃんと全員時間内に集まってるみてぇだな」
教室に入ってきた人物は……かつて、ゼルートがDランクの昇格試験を受ける際に、試験監督を担当した冒険者……ガンツ。
その頃から緩やかではあるが成長し続け、ついにBランクに到達した紛れもない猛者。
ゼルートが昇格試験を受けた際の試験監督を担当したということもあり、ドーウルスではそれなりの有名人となっており、ルーキーたちは昇格試験の試験監督担当がガンツとなると、一生自慢出来ると思われている。
「……良く解らねぇけど、早速問題でも起きたか?」
「申し訳ありません、うちのバカがバカな絡み方をして」
「ぅおい!! バカバカ言うんじゃないっての!!!! 思った事を口にしただけだろ」
「貴族を前にして、太って禿げているからクソハゲと言えるか? 言えないだろう。それと同じだ」
それとこれとはまた話が違う!!! とツッコミたいところ。
バルガスやフローラも「それはまた違うのでは?」と首を傾げるも、ペトラは良く言ったと言わんばかりの表情で何度も頷いていた。
ついでに言うと、確かに現在は冒険者として活動しているものの、クライレットは男爵家……今は伯爵家の長男であり、次期当主。
クライレットにそのつもりは全くないが、容易にバカ絡みして良い人物ではない。
「まっ、お前らの中で決着が着いてんなら、特に文句はねぇよ。ランクが上がったところで、喧嘩をする奴は喧嘩するしな」
Bランクに上がったことで、ガンツはこれまで関りが薄かった高ランクの冒険者たちとも関わるようになった。
Bランクになれば、それ相応の立場に就いた言えるのだが……それでも全員、根っこが冒険者であることに変わりはなく、喧嘩をする者は喧嘩してしまう。
そんなガンツの言葉を聞いて、ペトラはバルガスを……カルディアはジェリスに視線を向けた。
「おい!! なんで俺を見るんだよ、ペトラ!!」
「今回は上手く我慢出来たみたいだけど、だからといって今までの積み重ねが帳消しになる訳ないでしょう」
「うぐっ!!!!」
サクッと反論されて押し黙ってしまうバルガス。
ジェリスに関しては先程カルディアに杖で頭部を叩かれたこともあり、何故私にも視線を向けるんだと言い返したいところだったが、再度杖が飛んできそうなのでギリギリ言葉に出さなかった。
「んじゃ、今回お前らが受ける試験内容を説明するぞ。Bランク冒険者は立場上、他の冒険者たちを纏めて行動しなければならない時もあるが、それでも一番に必要なのは戦闘力だ。ってわけで、お前らが受ける試験内容は当然、討伐系だ」
討伐系の試験内容と聞き、闘争心旺盛なバルガスとジェリスはそれだけでテンションが上がる。
「討伐してもらう魔物は……Bランクのバジリスクだ」
Bランク魔物との戦闘、勝利経験がある冒険者が七人もいれば楽勝じゃね? と楽観視できる相手ではなく、リーダーという立場で行動してきたクライレットとカルディアの表情に緊張が走る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます