兄の物語[95]若き実力者

「ほら、既に俺たちよりも先に受験者がいたじゃないか」


「別に良いじゃん、それぐらいさ~~~。ちゃんと五分前に着いた訳なんだし」


(……初めて見る同業者、だね)


部屋に入室してきた竜人族の青年と豹の獣人族女性に、クライレットは見覚えが無かった。

ただ、戦っている光景を見ずとも、二人が自分たちと同じく歳若くてもBランクの昇格試験を受けられるだけの力があると感じ取っていた。


「五人とも初対面だな。俺は竜人族のカルディアだ。以後よろしく」


「僕はクライレットです」


「俺は獣人族のバルガスだ。よろしくな!!」


「私はエルフのペトラよ。よろしく」


「私はハーフドワーフのフローラだよ~~」


「私はミシェルです。よろしくお願いします」


礼儀正しい竜人族の青年を相手に、五人もそれ相応の態度で挨拶し、自分の名前を伝える。


すると……相方の竜人族、カルディアとは違って自分から自己紹介をするのではなく、品定めをする様な眼を向けながら豹人族の女性が五人に……正確には、クライレットに近づいた。


「クライレットって、あれよね。あのゼルートの兄、よね?」


「そうだね。ゼルートは僕の弟だね」


「ふ~~~~~~~ん………………なんだか、思ってたよりヒョロいわね」


予想していたよりもヒョロい。

それは明らかに……クライレットに対して喧嘩は売っていずとも、嘗めた態度を取っていると捉えられる。


次の瞬間には、バルガスはその場から立ち上がろうとするも、寸でのところで理性が勝った。

目の前の女の言葉は本当に喧嘩を売っていると捉えられるのか。


先日、喧嘩をしたくて喧嘩をしてる訳じゃないとパーティーメンバーの者たちの前で口にしたばかり。


対して……ペトラとフローラは豹人族の女性……ジェリスに対する視線が非常に鋭くなっていた。

二人もジェリスがクライレットに向けて口にした言葉は、明確に喧嘩を売っている訳ではない、売っている訳ではないが、嘗めた態度を取ってることには違いない。


故に、頭を冷静であるものの、怒りのメーターが徐々に高まりだす。


しかし、次の瞬間……部屋の中で、鈍い音が鳴り響いた。


「っ!!!!!! ぃっ、だああああああ~~~~~~~~っ!!!!!????? な、何すんのよカルディア!!!!!!」


音の原因は、カルディアが自身の杖でジェリスの頭部を叩いたこと。


「先日、あれだけ揉め事は起こすなと伝えていただろう」


「思ってたよりヒョロいって口にしただけじゃないのよ!!!!!」


「それは十分、相手を挑発する行為だ。全く……俺たちはこれから共に試験を受ける同士なのだぞ」


カルディアが制裁とも言える一撃を下してくれたことで、バルガスたちの溜飲が幾分が下がった。


ただ、当の頭部を固い杖で叩かれたジェリスは全く反省していなかった。


「へっ! 何が同士よ。試験が始まったら、評価を奪い合うライバルになるだけじゃない」


「それ自体は否定しないが、だからといって同業者との連携が出来ないというのもマイナス点になる。これから先、他の冒険者たちと共闘する場面も増える」


「私たち二人だけでも大量のCランクの魔物やBランクの魔物とも戦ってきたってのに?」


Bランクの魔物と戦ってきた……その言葉に、大なり小なり差はあれど、クライレットたちは反応した。


勝利した、と明確には宣言してないが、それでもBランクの魔物と二人で戦ったことがあるという時点で、二人の実力の高さが窺える。


(……二人だけで、Bランクの魔物を討伐出来る実力を持っているなら、どうやら僕の目利きは外れていたようだね)


モンスターとの戦闘に置いて、仲間の数というのは、非常に重要な要素。

強力な力を持つ戦闘者が一人いたとしても、攻撃の手数が足りないという事態に陥る場合もある。


そんな中……パーティーの人数が二人というのは、決して多くはなく、二人が紛れもない若き実力者であるという証明に繋がる。

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