兄の物語[100]弟の時は……
「そういえばさ、せっかくの昇格試験だろ。普通のコカトリスなのかな」
「……バルガス、もう少し詳しく話してちょうだい」
同業者たちと模擬戦を行っているジェリスを放置し、六人で昼食を食べていたクライレットたち。
そんな中で、ふとバルガスが思い出したかのように話し始めた。
「いや、Bランクの昇格試験で、こんだけの面子が揃ってるなら、ただのコカトリスが相手なのかって疑問に思ってよ」
「…………バルガス。ガンツさんも話してたけど、コカトリスは非常に厄介な魔物なのよ」
魔物の生態を調べる学者などからは、竜種の一種なのでは? と考えられているBランク魔物、コカトリス。
非常に強力な状態異常系の攻撃も使用するため、Bランク魔物の討伐経験がある者であっても……絶対に討伐出来る保証はない。
「いや、そりゃそうなんだけどよ。これだけ戦える面子が揃ってるなら、よっぽどこう…………戦闘中にいきなり他のBランク魔物とか、大量のCランク魔物が乱入してこない限り、多分負けないだろ」
「………………」
仲間たちの戦闘力は言わずもがな知っており、仲の良いミシェルのここ最近の功績もちらほら耳に入ってきている。
カルディアとジェリスたちの詳しい功績は知らないものの、間違いなくBランク昇格試験を受けるだけの力量を持っていることは解っている。
そのため、バルガス言いたい事は解らなくもなかった。
「って考えるとよ、ギルドが用意したコカトリスは本当に普通のコカトリスなのかと思ってな」
「………仮に普通のコカトリスでなかった場合、どういうコカトリスが出てくると思ってるの」
「そりゃあ……やっぱり、成長したコカトリスじゃね?」
「成長したコカトリスか~。そういえば、昔ゼルートがDランクの昇格試験を受けた際に、盗賊団のアジトへ向かう道中に成長した魔物と戦ったって言ってたね」
ペトラが「さすがにそれはあり得ないわ」と言おうとしたタイミングで、クライレットが昔弟から聞いた内容をポロっと零した。
「っ、クライレット。それは昇格試験内容が盗賊団退治の話よね」
「うん、そうだね。成長した魔物は……グレーグリズリーだったかな?」
「……何はともあれ、その魔物との戦闘が試験内容じゃないなら……問題無いわ」
何が問題なのか、とツッコむ者はこの場に一人もおらず、ミシェルやカルディアもペトラが何を考えているのか、なんとなく想像がついた。
「バルガス、普通に考えてそれはないと思うわよ」
「なんでだ?」
「Bランクの魔物が成長を経験すれば、実力はAランク相当になる…………今回試験を受ける面子なら、戦えないとは思えないわ。でも、ただの試験で戦う相手じゃない」
少なくとも、Bランクへの昇格試験内容ではないと断言するペトラ。
「冒険者は確かに強さが求められるけど、試験でその戦力を潰すようなことになったら意味がないでしょう」
「あぁ~~~……そいつは、そうだな。けどよ、上に行くなら逆境を跳ね返せる力的なものも重要になるんじゃねぇか」
「……それもまた理解出来なくはないわ。ただ、試験を行う度にそんなことを繰り返してたら、冒険者たちの数が激減するでしょ。もしくは、昇格試験を受けたくないって言う人が増えるわ」
「バルガス~~。逆境って言うのは、大抵の人が追い込まれてそのまま潰されちゃうから、逆境って言うんだよ~」
大抵の人がその状態になれば潰され、死んでしまうからこそ逆境。
そんなフローラの説明を受け、ようやく納得のいった表情になったバルガス。
「そう、かぁ………………んじゃ、面白い乱入者が現れねぇか、そこに期待するしかなさそうだな」
「だからなんであなたは一々そういうイレギュラーを期待するのよ」
相変わらずバルガスのバカさ加減に頭を悩ませられるペトラだが、今回初めて共に行動するカルディアは、そんなバルガスの強者との戦闘欲求に、寧ろ頼もしさを感じていた。
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