兄の物語[88]後悔を残さないように

「戻って来たね~~」


「そうだな」


二日酔いのダメージが抜けた翌日には出発し、ようやっとドーウルスに戻って来た四人。


まだ夕方前ということもあり、クライレットたちはそのまま冒険者ギルドへと向かった。


「頼まれてた依頼、完了しました」


ギルドに到着すると、早速受付嬢にアインツワイバーンを討伐した証明書を提出。


「……少々お待ちください」


受け取った受付嬢はほんの少し固まるも、直ぐに上司に伝えて戻って来た。


「クライレットさん、バルガスさん、ペトラさん、フローラさん、おめでとうございます」


速攻で事情を把握した受付嬢は、ひとまず四人の称賛の言葉を伝える。


「今後にいたしましては、追って連絡させていただきます」


「分かりました」


あまり騒がれたくない。

そんなクライレットの思いを汲み取り、受付嬢はどういった内容を追って連絡するとは口にしなかった。


「これで、ようやくね」


他の冒険者たちから、どういったやり取りだったのかバレることなく、無事ギルドから出た四人は込む前に夕食を食べる店を探し始めた。


「ようやくだな~~~~。けど、追って連絡するつっても、何日後なんだろうな」


「そこまで日数は掛からないと思うよ。僕たちにあぁいった依頼を出したって事は、それなりに準備が整っている筈」


「って事は、既に俺ら以外に試験を受ける冒険者が決まってるのか?」


「多分ね。もしかしたら、僕たちと同じく、試験を受けるだけの力量があるのか否か……もしくは受ける為の功績が必要な者たちが、強い魔物と戦ってる途中かもしれない」


「私たちの場合、既に両方とも揃っていたと思うけれど…………そうね、そういった状態の冒険者が他にいるかもしれないわね」


自分たちは強い。

しかし、他にも強いCランク冒険者はいる。


バルガスと同じく、ペトラも自分の実力に自惚れてはいない。


「それなら、十日以内には連絡がありそうだね」


「十日か~~。その間、依頼は受けねぇ方が良いのか?」


「そうだね。その日のうちに終わるであろう依頼ならともかく、それなりに日数がかかる依頼……後、あまり深い場所には行かない方が良いだろうね」


既にアインツワイバーンとの戦闘での疲労は回復している。


仮に十体以上のCランク魔物との戦闘、再度Bランクモンスターと戦闘を行ったとしても……傷に関してはポーションさえ不足していなければ、その日のうちに治る。

体力面も、万全な状態になるのに何日も必要ない。


「試験には、万全な状態で痛みたい」


それでも、クライレットはようやく巡ってきたチャンスに……公開を残したくない。


「……試験に向けて、体の調子を上げてく。そういった過ごしかたをするってことね」


「そうだね。勿論、勘が鈍らいないように訓練をするし、モンスターとも何度か戦おうとは思ってる。でも、疲れが残り過ぎる戦い、精神が削れる戦いは避けたいと思ってる」


「なるほど? 良く解らねぇけど、クライレットがそう言うなら、そうするのが一番だな」


理解してないのに、なるほどとはこれ如何に。


ツッコミたいペトラだが、バルガスのこういったところは今に始まったことではないため、ただ軽くため息を吐くだけに留める。


「だね~~。ようやく試験が受けられるって、結構テンションが上がってたけど、一旦落ち着いた方が良いよね」


フローラの言う通り、一旦上がったテンションをリセットした方が今後の為……だったが、夕食時にはペトラ以外、三人ともエールを注文していた。


「……クライレット、一旦落ち着いたりとか、あの話はなんだったの」


「? ペトラ、僕たちは冒険者だろ。この前ほど、それこそ過去最大の二日酔いが残るほど吞もうというわけじゃない。ただいつも通り、エールを呑むだけさ」


それが冒険者だろ、と言わんばかりの表情を向けられた結果、ペトラはため息を吐きながらもやけくそ気味にエールを注文した。

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