兄の物語[89]計算してる筈
「よぅ、お前ら」
「ガンツさん……どうも、お久しぶりです」
ゼルートの知り合いでもある冒険者、ガンツ。
偶々クライレットたちを発見し、椅子を持ってきて座り、直ぐにエールを注文。
「なんだ、もう出来上がってる感じか?」
「いつも通りですよ、いつも通り」
「そうですよ、ガンツさん」
「……オッケー、とりあえずペトラはちょっと危ない感じだな」
クライレットは言葉通り、問題無い。
バルガスも同じく問題無く……フローラに関しては、まだ肝臓一分目程度。
しかし、ペトラは既に頬だけではなく耳まで赤くなっていた。
「んで、お前らここ最近、何処に行ってたんだ? 結構離れてただろ。結構難易度が高い依頼でも受けてたのか?」
「そうですね…………長く、長い戦いだったと言いましょうか」
「……つまり、どんな依頼を受けてたんだ」
「あれっすよガンツさん。俺ら、そろそろ上がれそうなんすよ」
「………………マジか!!!!」
思わずエールを零しそうになるガンツ。
(いや、こいつらの実力を考えれば当然なんだろうけど……はは)
自分のことのように嬉しく感じ、四人の新しいエールを注文。
勿論、ガンツの奢りである。
「はっはっは!!!! ようやくか!!」
「そうっす! マジようやくっすよ~~~。いやぁ~~、長かったっす」
「……まっ、そう感じるだろうな」
バルガスたちの年齢を考えれば、寧ろ早過ぎる。
多くの同業者たちが疑う。
同じ冒険者でなくとも、視る眼がない者であれば一度は疑ってしまう。
だが……同世代の者たちよりも、最初から何歩も先を行っていた四人からすれば、長かった感じるのも無理はなかった。
「んで、どんな依頼を受けたんだ? やっぱり討伐系か?」
「うっす! アインツワイバーンってやつをぶっ倒してきました」
「アインツワイバーン……どっかで聞いたことがあるようなない様な……とりあえず、ワイバーンの亜種、上位種って感じの奴か」
「かなり強かったですよ~。とりあえず、私は一人で挑もうとは思えませんね~」
「俺は挑みたいぜ!!!!!」
「ダメに決まってるでしょ、バルガス」
若干酔いが回り始めているが、ペトラは冷静にバルガスに却下を入れた。
「んでだよ! 俺も強くなってるんだぜ!!」
「タイプの問題よ。空を飛ぶってだけで厄介な魔物なのよ」
「けどよ、この前一人でワイバーンを倒しただろ」
「アインツワイバーンは全ての面でワイバーンを上回ってるのよ。勝つ可能性より死ぬ可能性の方が高いから止めなさい」
「はっはっは!!! 確かにペトラの言う通りだな」
ガンツとしては、バルガスのソロでもBランクの魔物に挑みたいという気持ちは……実力は考えれば、嗤う様な内容ではない。
ただ、ペトラの言う通り、勝つ可能性よりも死ぬ可能性の方が高いのは間違いなかった。
「えぇ~~~~。んじゃあ、クライレットならどうなんだよ」
「…………駄目よ。バルガスよりも死ぬ可能性は低いとは思うけど、それでも決して気楽に考えられる割合じゃないわ」
「はっはっは! 手厳しいな~、お前らのとこの司令塔は」
「そうですね。でも、あまり下手な挑戦心を燃やした結果、誰かが亡くなっては元も子もないので、ありがたい存在ですよ」
正直なところ、今のクライレットにはそれなりの自信がある。
鳳竜を使えば、更に死ぬ可能性は低くなると……勝利する可能性が高まると思っている。
「……トップが冷静な頭を持ってるのも、良い事だ。んじゃあ、今は連絡待ちってことか」
「えぇ、そうです」
「お前らなら問題ねぇと思うが、お前らが参加するからこそ、それなりの内容が用意される可能性もありそうだな」
「もしかして、更に上の存在が標的に……という事は、ありませんよね」
なんだかんだで、ペトラも自分たちは強いと自覚しており、それなりの自信はある。
だが、これまで戦ってきた強敵の更に上に勝てる気は……欠片しか湧かない。
「安心しろ、ペトラ。ギルドもバカじゃねぇんだ。接触するかもしれない可能性すら残さないように、そこら辺はきちんと調整する筈だ」
パーティーの中にクライレットという、特別な存在がいるからという理由ではなく、単純に冒険者ギルドとしてクライレットたちという戦力を失いたくない。
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