兄の物語[87]討伐系以外もあり得る

「出発は、明日にしようか」


「そう、ね」


「さすがにぃ……今日は、無理だな~~~」


「りょうか~い。んじゃ、皆休んどいて~」


宴会を終えた翌日、そこまでアルコール度数が高くないエールとはいえ、奢られれば全て呑んでいった四人。


ハーフドワーフであるフローラは非常にケロッとしているが、他三人は完全にノックアウト。

ペトラに至っては、先日の夜どうやって宿まで戻ったのか全く覚えていない。


「……どうしてあの子は、あんなに強いのかしら?」


「それはフローラの体に、ドワーフの血が流れてるからに決まってるじゃないか」


両親が元冒険者であり、それなりに酒豪であった二人の血を継いでいるクライレットもアルコールにはかなり強いのだが、半分ドワーフの血を継いでいるフローラには敵わない。


「そう……そうね、そうだったわね」


そんな簡単な事を疑問に思うぐらい、ペトラは二日酔いにやられていた。


「なぁ、ドーウルスに戻ったらぁ……直ぐに試験を受けられんのかな」


「直ぐには、無理でしょうね。冒険者ギルドも、私たち以外に見込みのあるCランク冒険者を、まとめて受けさせたいでしょ」


「俺ら以外のCランク冒険者、かぁ………………確かに、ドーウルスには俺ら以外にも、割と昇格を狙えそうな奴らは、いるよな」


自分たちは強い。

確かな自信は持ってるものの、世界中のCランク冒険者の中で一番強い……と断言出来るほどの自信はない。


加えてドーウルスには多くの冒険者が集まり、成長出来る環境が割と揃っていることもあり、若くてもそれなりに実力のある若者が少なくない。


「そうね。ようやくBランクの昇格試験が受けられるからといって、油断はしてられないわね」


「つっても、受ける冒険者の数が多いと、どんな内容になるんだろうな。Bランクの魔物を、複数体同時に相手しろ、とかか?」


「…………昇格試験を受けるCランク冒険者の人数によるけど、十人……もしくはそれを越える数の受験者がいるなら、そういった試験内容かもしれないわね」


(……ペトラ、相当二日酔いのダメージが大きいみたいだね)


受験者が十人、もしくは十人以上いるのであれば、複数体のBランクの魔物を相手にする試験内容となるかもしれない。

これ自体は……そこまでおかしくはないが、問題なのはそもそもBランクの魔物が複数体、共に行動することが殆どない。


普段のペトラであれば、まずそこに気付くところだが、クライレットの想像通り、二日酔いによるダメージが大き過ぎたため、そこまで考えが回らなくなってしまっていた。


「でも、試験内容が討伐系以外の場合も、十分あり得るよ」


「うげ!!! マジかよぉ……俺、絶対に討伐系の試験内容が、良いんだけど」


「それを決めるのは、僕たちじゃないからね。ギルド側が決めることだ」


冒険者が一番に求められるのは戦闘力、仕事を達成出来るだけの力だが、何かと戦いながら別の事も気にする、対応しなければならない場合もある。


「護衛系、採集系……その試験を達成する上で、Bランクの魔物と戦う……といったシチュエーションも考えられるわ」


「…………よし、守ったり採ったりするのはお前らに任せた」


「バカ言いなさい。突撃して、パーティーに勢いを付けるのがあなたの役割であっても、その他の事がまるで出来ないとなれば、評価が下がるかもしれないでしょう」


「適正な、役割分担って言い訳は、ダメか?」


「最低限の事は、出来ないとダメでしょうね」


「ぐぉ~~~~~~……討伐系の、試験内容を祈るばかりだぜ~~~~~」


「ふふ、レグディスの気持ちは、解らなくもないかな。僕たちが一番力を発揮できるのは、討伐関連だからね……ところで、フローラは何処に行ったんだろうね」


三人は取った宿のベッドの上で倒れているが、確実に数十杯はエールを吞み干していたにもかかわらず、ケロッとしていたフローラは部屋にいなかった。


「……街を散策でも、してるんでしょう」


普段なら少しぐらいは心配になるペトラだが、大き過ぎる二日酔いのダメージもあって、探しに行く素振りすらしなかった。



「ただいま~~~~」


ちなみに夕方には無事帰って来たフローラだが、帰ってくるまで何をしていたのかというと……街の散策ではなく、一人で街の外に出てモンスターを狩っていた。


それを聞いて、収まりつつあった二日酔いのダメージが再発し、頭痛にやられるペトラだった。

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