兄の物語[83]逃さない
強い。
予想していた通り、先程まで戦っていた人間たちよりも圧倒的に強いというのが、アインツワイバーンの感想だった。
何度か自分の命に刃が迫る感覚を感じた。
そんな感覚を……アインツワイバーンは受け入れ、寧ろ楽しんでいた。
「ッ、ガァァアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!!!」
森全体に響き渡るであろう雄叫びを上げ、鋭い眼光を飛ばす。
「上等、だね」
吹き飛ばされたフローラも戻ってきた。
万全の四人体制でアインツワイバーンを迎え討つ。
「ブレスが来るッ!!!!」
以外にも、この中で一番感覚が研ぎ澄まされていたのはクライレットではなく……バルガスだった。
僅かな動きの変化から、アインツワイバーンの次の一手を察知。
(さっきよりも……強めにいった方が良さそうですね)
そしてアインツワイバーンの知能を高く評価していたクライレットは、先程の様に斬り裂く斬撃を放つのではなく、旋風を纏った渾身の刺突を放った。
「っ!!??」
次の瞬間、暴発はしなかったものの、回避の影響で全く無関係な場所に放たれたブレスは……先程の広範囲を焼き尽くすブレスではなく、一点集中型のブレスだった。
(さっすがクライレット。助かった~~)
後からではあるが、フローラもアインツワイバーンのブレスがどういった内容のものだったのかを把握。
仮にアインツワイバーンがブレスを放てていた場合……全員が回避に成功したとしても、そこから首を動かす軌道変化によって不意を突かれてた可能性が非常に高かった。
「ッ!!!!!!!」
自分の考えを見破られ、阻止されたアインツワイバーンは多少の怒りを押し込み、今度は更に上空へ移動。
そして旋回しながら、多数の火球を放った。
「もう! 面倒な事してくれるわね!!!!」
先程のレーザーブレスよりも対処がしやすい。
躱すのは簡単だが、放っておけば火事になってしまう。
ペトラは複数の矢に風の魔力を纏わせ、狙撃。
放たれた矢は多数の火球に命中し、次の瞬間、矢に纏っていた風が膨れ上がり、火球を内側から消し潰した。
「ナイスペトラっ!!!!」
周囲の木々を足場にして駆け上り、大跳躍。
アインツワイバーンと同じ高さに達したバルガスは強烈な爪撃刃を飛ばす。
翼を持つ相手の領域である宙に跳ぶなど、自殺行為に等しい。
これが仮にアインツワイバーンとバルガスの一騎討ちであれば、まさにその通りであった。
しかし、今回バルガスは一人で戦っているのではなく、パーティーとしての戦い。
宙に跳んだバカを狩ろうとする動きを、クライレットが逃す訳がない。
「セェエエエアアアアッ!!!!!」
「っ!!!」
まだ宙にいるバルガスに当たらないよう、幾つもの刺突が放たれる。
それらをアインツワイバーンは器用に旋回して回避するも、一つの攻撃に意識が捉われれば……まだ宙にいるバルガスとペトラの攻撃の餌食となる。
「ハッ!!!!」
「っしゃおらッ!!!!!」
「ギっ!!??」
貫通、切断とまではいかなかったが、それでも確かなダメージを与えることに成功。
翼にもダメージを与えたことで、アインツワイバーンは降下を余儀なくされた。
「ハァアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
そこに大量の魔力を纏った戦斧を振りかざすフローラが突撃。
戦斧の切れ味、纏う魔力による強化、フローラの腕力が重なれば……絶命とはいかずとも、切断は不可能ではない。
「ッ!!!!!!」
危うさを本能的に感じ取ったアインツワイバーンは翼に風の魔力を纏い、無理矢理扇ぎ、寸でのところで戦斧による斬撃を回避。
「疾ッ!!!!!」
見えていなかった。
フローラの姿に隠れるよう、超低空姿勢で走っていたクライレットの姿を見抜けていなかった。
(不本意では、あるよね)
アインツワイバーンが人の言葉を喋った訳ではない。
心の内に話しかけてもいない。
だが……なんとなく、心の内を悟った。
しかし、だからといって勝機を逃す訳にはいかない。
クライレットは全力の細剣術、閃光を放ち……アインツワイバーンの脳を貫いた。
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