兄の物語[82]壁として相応しい

「はっはっは!!!! 良かったな、お前ら!!!」


「そうね。気を落さずに済んで良かったわ」


数日後、クライレットたちはようやく目的の魔物、アインツワイバーンと遭遇することに成功。


「それじゃ、君たちは速く街に戻っててね~」


ただ、偶々遭遇できたのではなく、見知った気配に加えて、聞き覚えがある悲鳴が耳に入った。


現場に到着すると、先日クライレットたちにダル絡みしてきたルーキーが……一人も死んではないが、重傷者が多い状態。

アインツワイバーンがブレスでも吐けば、全て終わりそうなほど絶体絶命の状況で、クライレットたちが到着。


すると、直ぐにダル絡みルーキーたちへの興味を失い、新らたに現れた挑戦者たちに視線を向けた。


「ッ!!!」


リーダーであるCランクの青年は苦々しい表情を浮かべ、フローラに言われた通り……直ぐに街へ戻ろうとしなかった。


「……邪魔だッ!!!! とっとと失せろ!!!!!!!!」


「ぃっ!!! ぐっ…………っ!!!!!」


普段のクライレットからは想像も出来ない怒声が飛び出し、青年はその圧に押されて尻餅を付き、変わらず苦々しい表情を浮かべながらも、その場から仲間たちと共に走り出した。


「おっほ! クライレットにしちゃあ、珍しい怒鳴り方だな」


「そうだね……僕にしては、珍しく気が立ってるよ」


やっと、やっと巡って来たチャンス。


クライレットとしては、Cランクの男が「まだ俺達が戦ってるんだ!!!」と言ってきても、はたまた「俺に手伝わせてくれ!!!!」と頼み込んできても、同じ言葉を返すと決めていた。


「相手は、強い。気を引き締めていこうか」


「おうよッ!!!!」


「当然よ」


「防御は任せて~」


「…………牙ァアアアアアアッ!!!!!」


アインツワイバーンは互いの武器をぶつけ合う前から、目の前の四人は先程の人間たちと明らかに違うと感じ取り、薄っすらと笑みを浮かべながら雄叫びを上げた。


「ッ!!!! ぃよいしょ!」


初手、フローラが爪撃をギリギリで受け流し、再度からクライレットの斬撃刃とペトラの剛矢が飛来。


「っ!!!」


しかし、その場で旋回して共に弾き飛ばす。


「ぬぅあいしょおおおおおッ!!!!!!」


旋回が終わった瞬間を狙い、バルガスの剛拳が腹に炸裂。


「ッ!!! シャアアアアアアアアッ!!!!」


上空に殴り飛ばされるも、即座に拡散タイプのブレスを発動。


「疾ッ!!!!!」


それを読んでいたクライレットは旋風の斬撃刃を放ち、拡散力を重視したブレスを両断。


「左よっ!!!!!」


両断して視界が開けた瞬間にはアインツワイバーンの姿が消えていた。


だが、空を切る移動音を察知し、ペトラが直ぐに移動した報告を伝える。


「ぬぐっ!!!???」


四人の左側に居たのはバルガスであり、ギリギリフローラの防御が間に合わないタイミングと位置。


それを瞬時に把握したフローラは直ぐに思考を切り替え、バルガスが爪撃に押される速さ、長さを判断して跳躍。


「やぁああああッ!!!!!!」


「っ!!??」


宙に跳んだフローラは万が一とんでくるかもしれない攻撃に臆さず、逆に圧し潰す覚悟で盾術、シールドバッシュを発動。


アインツワイバーンは咄嗟にもう片方の爪撃で対応するが……結果は相打ち。


「おわっ!!??」


フローラは上空に跳ね返されてしまうも、大きなダメージはない。


(今だっ!!!!!!)


アインツワイバーンに隙が生まれた。

そう判断したクライレットはフローラのことをペトラに任せ、懐に潜り込んで最高の刺突を……放とうとしたが、決して無視できない尾による攻撃が横から飛来。


「くっ!!」


屈むという選択肢を取らざるを得ず、その隙にアインツワイバーンはバルガスを振り払い、上空に一時避難。


「のわっ!! っとっと。へっへっへ、さすがワインバーンの上位種なだけあるな~、おい」


「そうだね、バルガス。うん……少し緩んでた心が完全に引き締まったよ」


挑戦権を得る壁として、これほど相応しい敵はいない。

クライレットの闘志は更に燃え上がり、それはバルガスたち仲間達……だけではなく、敵であるアインツワイバーンにも飛び火した。

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