兄の物語[66]竜に迫る
「クライレットさんたちには是非、こちらの依頼を受けて頂きたいと思いまして」
受付嬢が個室で四人に渡した依頼書には……とある魔物の名前が記されていた。
「アインツワイバーンの討伐、ですか…………アインツ、ワイバーン?」
ぎりぎりドラゴンには分類されない亜竜。
それがワイバーン。
そんなワイバーンにも種類があることは知っているクライレット。
しかし、アインツワイバーンという名のワイバーンは聞き覚えが無かった。
「こちらのワイバーンは、元々群れで活動していた個体が群れを抜け出し、一人で活動を始めた個体……と言われています」
「ん~~~? もしかして、虐められて群れから追い出されたってことか?」
人間とは違い、生きる世界が完全に弱肉強食である野性において、バルガスが口にした例は決して珍しくない。
「まだ、どういった理由でワイバーンから進化するのか詳しい詳細は解っていませんが、おそらくそういった個体ではないかと」
「っていうと、群れるのに飽きたとか?」
「そういった可能性も考えられています。ただ、そういった思考に加えて、ワイバーンの中でも強さを求めている個体だと推測されています」
「へぇ~~~~。それが、ワイバーンからアインツワイバーンに進化する条件ってわけか」
「確定ではありませんが、その可能性が高いと考えられています」
群れることに飽き、強さを求めるため一人で行動し始めたワイバーン。
バルガスとしては……是非とも、バチバチに戦いたい好みの魔物であった。
「このアインツワイバーンのランクは、通常のワイバーンと違い、ランクはBです」
「Bランクのワイバーン…………つまり、このワイバーンは通常のドラゴンに勝てる力を秘めてる亜竜、ということですね」
「そういう事になります。通常のワイバーンと変わらないだろうと侮っていると、あっさりと逆に殺られる可能性もあるとのことです」
(…………うん、悪くない相手だ。ただ……鳳竜を試すかは、少し迷うな)
自分たちの力を試す相手としては、妥当な相手だと思いながらも、新しく手に入れた切り札を試すかは迷う、相変わらずのクライレット。
「因みにですが、この依頼をクライレットさんたちが達成した場合、ギルドはあなた達を次のBランク昇格試験への参加を容認します」
「「「「っ!!!!」」」」
受付嬢の言葉に、四人の眼の色が変わる。
(Bランク昇格試験……そうか、ようやくここまでこれたのか)
(はっはっは!!!! 良いね、最高じゃねぇか!!! 燃え上がらせてくれるじゃねぇか!!!!!)
(この依頼を達成すれば、遂に)
(これはあれだねぇ……ふっふっふ、わくわくするやつだね)
四人とも、テンションが爆上がりなのは間違いなかった。
「分かりました。是非、受けさせていただきます」
「かしこまりました」
Bランクモンスター、アインツワイバーンの討伐依頼を受けたクライレットたち。
その日の夜、四人は……非常に盛り上がっていた。
「エール追加で!!」
「は~~~い!!」
「バルガス、少し呑み過ぎよ」
「へっへっへ、良いじゃねぇか。今日はいつも以上に呑みたい気分なんだよ! つか、ペトラだっていつもより呑んでるじゃねぇか。お前だって本当は浴びるほど呑みたい気分なんだろ」
図星を突かれ、ぎくりと固まるペトラ。
そんな同じ女性メンバーを、フローラがフォローする。
「バルガス、そんな虐めないの~。それに、呑みたい気分っていうのは私も解るけど、あんまり吞み過ぎは良くないのも間違ってないよ。あっ、お姉さんエールおかわり~」
「かしこまりました~~」
「……いやいやいや、お前が一番呑んでるじゃねぇか!!!」
バルガスのツッコミ通り、フローラがパーティー内で一番エールを呑み干していた。
「いや~~~、だって私にとってはエールは、そこそこ美味しいお水って感じだからさ」
「やっぱドワーフの血が混ざってると、そこら辺半端ねぇな。なぁ、クライレット」
「ふふ、そうだね……まぁ、全員が酔い潰れるのは良くないけど、最近頑張って戦ってきたんだ……少し羽目を外しても大丈夫だよ」
リーダーの許可が下りたため、二人を追加のエールが到着すると速攻で飲み干し、また追加でエールを頼むのだった。
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