兄の物語[65]変わらず、隣で

「フローラ、今日一日何か考え事をしてたでしょ」


「バレてた?」


「仲間ならバレるってところかしら。あのバカは気付いてなさそうだけど」


夕食を食べ終え、宿の部屋に戻った二人。

クライレットの新しい魔剣を受け取ってからずっと考え込む様な表情をしていたフローラ。


本人は上手くポーカーフェイスをしていたつもりだが、ペトラとクライレットにはバレていた。


「それで、何を悩んでいたの?」


「ん~~~~~、別に悩んでたって訳じゃないんだよ。ただ、私たちはかなり恵まれてるんだろうな~~、思って」


「それは……クライレットに関わる話?」


「そうだよ。ほら、パラから鳳竜を受け取った時、クライレットは嬉しそうにしてたけど、何と言うか……満足したって雰囲気はなかったでしょ」


ペトラもその表情は覚えており、思わずため息をつきたくなる。


「そうだったわね……私としては、もう少し子供ぽっく喜んでも良いんじゃないかって思ったけど」


「クライレットがそんな感じで笑うかな?」


「だって、ランク八の魔剣よ。子供が本物の武器を貰った時と同じぐらい喜んではしゃいでも良い筈よ」


「……ふふふ、それはそうかもしれない。そんな風にはしゃぐクライレットは見てみたかったけど……でも、クライレットって子供の頃からクールっぽいから、子供の時でも嬉しさを抑え込んでそうじゃない?」


「かも、しれないわね。でもさすがに、口端に嬉しさが滲み出ると思うわよ」


必死に嬉しさを噛み殺そうとするも、口端に笑みが零れている。


そんな子供クライレットを想像し、思わず笑ってしまう二人。


「でも、そんなクライレットみたいに、リーダーが常に満足しないで前を向いてるパーティーって、あまりないんじゃないかって思ってさ」


「言われてみれば…………そう、ね。クライレットの場合はちょっと頑張り過ぎというか、前を向き過ぎかもしれないけど……珍しい部類のリーダーね」


冒険者として活動するからには、上を目指したい。

稼げるようになって両手に華、小金持ちになりたいなど色々と目標はあれど、最初こそ高い目標を持って冒険者になる者が殆ど。


だが、世の中には才能の差や本人がどれだけ頑張れるのか……そういったどうしようもない差がある。


「でしょ。だから、そんな人がリーダーな私たちは結構恵まれてるんじゃないかって」


「そうね……うん、恵まれてるわね。けど……だからこそ、私はもう少しクライレットに休んで欲しいというか……力を抜いて欲しいって思うことが多いのよね」


「まぁ、それはそうかもしれないね。でもさ、私たちがこれからもクライレットの傍で仲間として支え続けてたら、クライレットが頑張り過ぎても倒れることはないんじゃない?」


「……ふふ、そうよね。クライレットを、一人にはしないわ」


ドーウルスに来る前から決めていたことである。

まだまこれから強くなる……強くなり続けるクライレットを支える、そして共に高みを目指し続ける。


そのためには、まず、全員揃ってBランクになる。


「そういえば、バルガスじゃないけど、私たちの功績からいって、後一つか二つ大きめの依頼を受けるか、Bランクのモンスターを倒せばBランクの昇格試験を受けられるよね」


「おそらくとしか言えないけど、その筈よ」


ドーウルスで活動するようになってから、全員が順調にレベルアップしていた。

加えて、本日ようやくクライレットの切り札と言える新しい魔剣……鳳竜を手に入れた。


ペトラたちからすれば、既にBランクの依頼を受ける気満々であった。



そして三日後……何か旨味のある依頼書はないかとギルドを訪れたクライレットたちに、先日と同じくギルド職員がクライレットたちの実力を見込んで、とあるモンスターの討伐依頼を持ってきた。

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