兄の物語[64]それでこそ

「これが……僕の剣、か」


「そうです! こちらのロングソードの名前は鳳竜。事前にお伝えした通り、風と火属性のドラゴンの素材を使用しています」


一目で業物だと……業物の中の業物だと感じ取ったペトラは、約束の料金をそっと渡した。


ただ、クライレットは既に料金を渡した、という事に気付くことなく、新しい剣に手を伸ばしていた。


「っ、軽い」


「風属性の魔物の素材を使用した場合、武器や防具が軽くなることが多いですからね。ただ、鳳竜は丁度良い重さになっているかと」


「…………はい、本当に丁度良い……重さです」


得物を振るうには、軽さは確かに重要だが、それなりの重さが無ければ使用者の感覚が狂うことがある。


その為の、武器が羽の様に軽いと表現されるほど重さを感じないと、それはそれで持ち手に苦労を掛けることになる。


「それは良かったです!! ちなみに、鳳竜のランクは八です。師匠も会心の出来だと喜んでいました」


「「「「っ!!!!」」」」


予想は、していた。


金貨数十枚ではなく、白金貨を数枚以上使用するレベルの武器。

ある程度戦闘者として活動して、武器や防具、マジックアイテムを使用してきた者であれば、どれほどのレベルが出来上がるのか……解らない訳がない。


加えて、クライレットたちは実際にその得物を……目の前で見た。

全員にトップクラスの審美眼が備わっている訳ではない。

バルガスなど、理屈で納得するタイプではないが……リーダーが手に持っているロングソードが、どれ程の業物なのか、本能的に感じ取っていた。


「は、はっはっは……良かったじゃねぇか!!! クライレット!!! ランク八のロングソードだぜ!!!! あれだ……聖騎士に聖剣みてぇな感じだろ!」


「バルガスにしては良い例えね。クライレット、あなたが何と言おうと、思おうとも……あなたに似合う武器よ」


「ペトラと同じ考えだね~~。本当に似合ってるよ、クライレット」


「…………ありがとう、皆」


クライレットの表情に曇りは一切ない。

一切ないのだが……一年以上の付き合いがあり、これまで共に修羅場を、視線を潜り抜けてきた三人は……今、クライレットが何を考えているのか直ぐに解った。


(ぷっ! はっはっは!!!!! やっぱクライレットはそうでなくちゃな!!!!)


(もう……こんな時ぐらい素直に単純に喜べば良いのに)


(ん~~~~~、何と言うか、本当にクライレットらしいね~~~。だからこそ、頼れるリーダーって感じではあるんだけどね)


クライレットは……本当に頼りになる切り札を得た。

そう感じたからこそ、この切り札を完璧に扱えるように……使用者として相応しい強さを手に入れようと、もっと己自身を鍛えなければという気持ちが燃え上がっていた。


「ふっふっふ、クライレットさんは本当に師匠の言う通りの方なんですね」


「? ドゴールさんは……どのように、自分を評価していたんですか」


「クライレットさん自身、既に強者としての素質と力を備えている。それでも、自分はまだまだだと……決して驕ることなく、前を向いて歩き続ける。そこがあいつの強さだと……語っていました」


「は、ははは。何と言うか、思いっきりバレてるというか見抜かれているというか」


「本当にそうね。私としては、今日一日ぐらいは浮かれてほしいものだけど」


「無理なんじゃねぇの? 常に前に進んでこそのクライレットって感じだろ」


バルガスの言う通り、ペトラの中にも、それはそれでクライレットらしいという思いがあり、それはフローラも同じだった。


(うんうん、私は変わらずで寧ろ安心だね~~~…………あれ? そういえばクライレットには歳が近い妹さんがいるって言ってたよね。もしかして、妹さんもクライレットみたいな感じ……ぽかったような??)


自分たちは納得し、寧ろそこに頼もしさを感じているが、ふと他にこれだけ常に前を向いている者がリーダーのパーティーは上手くいっているのかという疑問が湧いた。

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