兄の物語[63]寝てるかも?

「どんな魔剣が出来上がってるだろうな!!!」


水漣華の納品依頼を終えてから数日後、クライレット達はドゴールに頼んだ武器の製造の進捗を確認しに向かっていた。


「バルガス、私たちはどれぐらい進んでるかを確認しに行くだけよ」


「えぇ~~~~。だってよぉ、そろそろ出来上がっててもおかしくねぇだろ」


「ドゴールさんは私たち以外にも多くの客がいるの。全く進んでないとは思わないけど、まだ終わってなくても全くおかしくないのよ!」


こんな事をバカ相手に説明しているペトラだが、正直なところ……ドゴールと話した時の空気感から、ドゴールが優先的にクライレットの新しい魔剣を製造してくれているのではないかと考えていた。


「そうだぞ、バルガス。ドゴールさんがどれ程の人か、何となく解るだろ」


「鍛冶は全く解らねぇけど、一流? って感じの雰囲気を持ってるのは間違いねぇな」


「冒険者であれば、戦闘に関わる仕事をしてる人なら、そんな人に自分の武器を造って欲しいと思うだろ」


「……なぁ~るほどな。そりゃクライレットの武器でも、遅くなっちまうか」


「そもそも、僕は特別視される様な人じゃないよ」


弟であるゼルートがややぶっ飛び過ぎている……事を除いても、両親であるガレンとレミアは冒険者の中で十分……どころか、圧倒的に成功している部類に入る。


騎士の爵位を貰う冒険者なら……決して多くはないが、いなくはない。

だが、男爵の地位を貰い、領地まで貰って領主になる冒険者は稀も稀。


(ちょこっと聞いただけだけど、父さんと母さんもディスタール王国の冒険者や騎士たちに、中々の絶望を与えたらしいしね…………僕も、もっと強くならないとな)


目指す上が高過ぎると、自身のちょっとした成長にあまり喜べない。


「それに、一応まだこの愛剣でも対応出来るしね」


「クライレット…………」


「っと、そんなに怖い顔しないでくれ、ペトラ。この先……もっと強い武器が必要なのは解ってる。ただ、それはそれでこれはこれと言うか、さ。こいつにはこいつで愛着があるんだよ」


学生の頃から抜きんでた実力を有しており、冒険者として活動を始めて……更に大成長。

クライレットがミスリル製の得物を扱うようになるまで、さほど時間は掛からなかった。


「……そういう事ね」


「愛着か~~~~。俺は素手で戦ってるからあれだけど、初めて買ったポーチが中々捨てられねぇとか、そういう事だろ」


「そういう事だね。っと、着いたみたいだね」


あれこれ話してる内に、目的の鍛冶場に到着。


「……音がしないわね」


到着したのは良いが、鍛冶場から鍛冶作業をしている、特有の金属と何かがぶつかり合う音が聞こえない。


「多分、寝てるんじゃないかな」


「もう昼手前よ?」


「鍛冶師はがっつり起きて、がっつり寝ることが多いからね~~。もしかしたら、夜まで……明日の朝まで寝てるかもしれないね」


「っ!!?? それは………………仕方ないわね。それならそれで出直すしかないわね」


鍛冶師の苦労、事情を知らないため、さすがに寝過ぎでは? とツッコめず、ひとまずドアをノックした。


すると……ドワーフにしては、軽い足取りが近づき、勢い良くドアが開いた。


「あっ、この間ぶりですね」


「この間ぶり~、パラ~~~。えっとね、私たちが頼んでた、新しいクライレットの魔剣が出来上がってるか、もしくはどこまで進んでるのか尋ねて来たんだけど」


「クライレットさんの魔剣ね。ちょっと待ってて!!!」


客間に案内することを忘れ、ダッシュで奥へと走って行った。


特に寒いわけではないため、クライレットたちは中に入らず待っていると……今度はダッシュで箱を抱えながら戻って来た。


「はぁ、はぁ、お持たせ。あっ、ごめんなさい!! 中に入って」


客間に案内されたクライレットたち。


そして……事前に師であるドゴールから許可を取っているパラは、ゆっくりと……蓋を開けた。

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