兄の物語[62]根性の限界
「ギョギャっ!!!!????」
そのままスパッと斬り裂く……とまではいかなかったが、それでも付いているイチモツをぶった斬り、股を裂いた。
「ギ、ギャ!!!」
根性がある。
それは股が裂けても前に出て戦おうという姿勢を見れば解るものの、片腕が折れた状態とは訳が違う。
歩き方自体に支障が出る為、バルドモンキーの機動力は潰されたも同然。
「ふんっ!!!!」
「っ!!!! ァ……キャ」
「……そういえば、誰かが蹴り技は隙が大きいって言ってたね」
根性を振り絞って放たれ引っ搔きを交わし、戦斧を首に叩きこみ……終了。
勝機となった瞬間を振り返り、フローラはいつか耳にした武道家の話をふと思い出した。
「確かに、頭を狙う様な蹴りは、隙が大きいね。さてさて向こうは…………仕方ない。もうちょっとだけ待つか」
バルガスは……なんだかんだでバカの部類に入ると、身内からも思われている。
だが、それでも戦闘の事になると、時々柔軟性……異様な器用さを見せる。
「ハッハッハ!!!! まだいけるか!!!???」
「ウッ、キャオッ!!!!!」
「ッシャオラッ!!!!」
(あぁ……超楽しんじゃってるね)
今、バルガスは普通の個体と比べて体が大きいバルドモンキーの力を、限界ギリギリまで……もしくは限界を越えた力を引き出そうとしている。
(多分ギリギリの戦いをして、バルドモンキーの限界値を引き上げてるんだよね。よくあんな器用な事出来るね~~~。偶々なのは知ってるけど、だとしてもって話だね)
この場にはペトラがいれば、確実に「そろそろ終わらせなさい!!!」という説教が飛んでくる。
しかし現在はその鬼婆がいない事を忘れずに覚えているのか……まだ終わらせる気がない。
フローラも観てて飽きないため、早く終わらせろとは言わず、周囲を警戒しながらも観戦を続けていた。
まだこれから数分は続くだろ……そう思っていたバルガスとフローラ。
だが、終わりは突然やってくる。
「あん? …………チッ! しゃあねぇか」
いきなり落胆した表情を浮かべ、勝負を終わらせに動くバルガス。
「ギ、ウギャっ!!??」
「楽しかった、ぜ!!!!!」
「ギャっ、ァ」
魔力を纏った鋭い貫手が心臓を貫き、こちらの戦闘も終了。
「はぁ~~~~~~~」
「デカい溜息だね。でも、あれは仕方ないと思うよ」
「解ってるよ。俺もそこまでバカじゃねぇんだからよ……けど、もうちょい楽しめそうだったんだけどな~~」
バルドモンキーは武道家らしい動き、攻撃を行う厄介な猿の魔物だが、あまり魔力量が多くない。
そのため、強化系スキルの持続時間は短く、長時間の間体に魔力を纏って強化することも出来ない。
今回のバトル相手がバルガスとなれば、通常の個体とは体の大きさが違うバルドモンキーとはいえ、余裕をぶっこいていられる訳がなく……あっという間にガス欠になってしまった。
「ここで活動してれば、まだまだ楽しめる機会は巡ってくるよ。とりあえず私が解体するから、バルガスは見張っといて」
「りょ~~かい」
その後二人は…………少々気になる気配を見つけてしまうも、さすがにヤバいとフローラが必死にバルガスを引き止めたことで、クライレットとペトラが「なんかあいつらちょっと帰ってくるの遅くない?」と疑問を感じて心配になることはなく、珍しいタッグでの探索は終了。
「いやぁ~~~、ありゃ絶対にBランクの中でも上位的な存在感……いや、もしかしたらAランクだったかもしれなかった!!!!」
「へぇ~~~。そんな存在感を放つ魔物が居たんだね」
「そうなんだよ!!! バチバチに戦いたかったんだけど、フローラに止められてよ~。フローラがいれば、戦れなくもないと思ったんだけどな~~」
「あんたの基準で、フローラを巻き込むな」
「いだっ!!??」
夕食時、やはりこいつはバカだと再度思ったペトラは殺傷能力がない風弾を指で弾き、バルガスの額に当てた。
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