兄の物語[61]打撃でも斬撃でも、関係無い

「バルドモンキーか」


「バルガス。あれは普通のバルドモンキーより体が大きい。暴れるにしても、冷静さを忘れないで」


「あいよっ!!!!」


「「ウキャキャッ!!!!!」」


非常に好戦的な性格をしている猿の魔物、バルドモンキー。


体格は基本的に猿と言える大きさだが、今回二人の前に現れた二体のバルドモンキーの体はゴリラ……には届かないが、それでも通常の去るタイプの魔物より体が大きい。


「キャキャッ!!!!」


「フローラ! 一体はやれるよな!!」


「任せて、よ!!!!!」


バルドモンキーのランクは……一応C。

Cランクの中でも戦闘力は下から数えた方が早いのだが、体格が通常の個体よりも大きい二体の戦闘力は、当然それらの情報が全く参考にならない。


「キャッキャッキャ!!!」


「ははっ!!! 随分と、余裕そうな顔で、笑うじゃねぇかッ!!!!」


魔物に多少笑われたところで、沸点を越えるほど短気過ぎる男ではないバルガス。


ただ、それだけ余裕な表情を浮かべるのであれば、それ相応の楽しさを自分に与えてくれるんだよな? という期待が膨れ上がる。


(冷静かどうか、やっぱりちょっと怪しい、けど。それでもうっかりやられる事は、なさそうだね)


「キャッ!!! キャキャキャッ!!!!」


「っと、ごめんごめん。もしかして、私が無効を気にしてるのが、気に食わなかったの、かな? バルドモンキーなら、そういった感情を見せても、おかしくないかも、ね!!!」


クライレットとペトラも入れて、四人で戦う際は大盾を使うことが多いフローラ。


しかし、今回戦うバルドモンキーは素早い動きが得意であり、大盾の様な重量が半端ない道具を使っていれば、防御する前に攻撃を食らってしまう。


なので今回は片手に盾を持ち、もう片手に戦斧を持ち……いつもと違ってがっつり戦う装備スタイルで戦闘に臨む。


「キャキャッ!!! ウキャッ!!!!!」


「前に、戦ったことが、あるけど……こうも体格が大きいと、そういう動きが出来るのは、反則じゃないかと、思うね」


バルドモンキーは体術の動きを会得しており、戦いの中でただ体術の技を繰り出すのではなく、動きが武道家らしく対人間に対して非常に慣れている。


(本当に、バルガスみたいな身体能力が高い獣人族が、武術の動き? を覚えたみたいな感じ、だよね……絶対にバルガスの前で言えない、けど)


獣人族の中には、自分たちをバルドモンキーに例えられることを非常に嫌う者たちが一定数居る。


バルガスは基本的に身内から冗談で言われてもキレることはないが、身内であるフローラからすればそれはそれで、これはれ……親しき中にも礼儀ありであった。


「それでも、まだ戦りやすいね」


「っ!! ウ、キャアアアアアッ!!!!!」


フローラの表情から、自分が嘗められていると感じたのか、攻撃を打撃から手刀に切り替えたバルドモンキー。


素手であっても、打撃から斬撃に攻撃方法を変えられるというのは非常に厄介だが……これまでタンクとしてそれなりに経験を積んできたフローラにとっては、それぐらいで狼狽えることは一切ない。


「よっ、と」


「ギっ!!?? ッ!!!!」


「っと、まだ浅かった、みたいだね」


打撃も斬撃も、これまで何回何十回……何百回と捌いてきた。


バルドモンキーの手刀は確かに当たり所が悪ければ……斬れるどころか、切断されてしまう可能性すらある。

だが、捌かれて体勢を崩してしまえば、防御がメインのフローラでも良い一撃を与えられる。


(攻め時だね)


それでもフローラは余裕をぶっこくことはなく、確実に攻められる時のみ攻めた。


(できるなら、もっと早く終わらせたい、けど……っと! やっぱり並じゃないんだよね~)


崩れた体勢でも攻撃を仕掛けてくる。

その可能性は把握済みであり、変則的な蹴りを盾で弾き……露わになった股に、戦斧が叩き込まれた。

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