兄の物語[38]忘れてない証拠
「初日から二体も上手くやれるなんて、幸先良いな!!!」
夕食時、バルガスは豪快にエールを煽りながら本日の成果を喜ぶ。
「そうだね。バルガスが考えた作戦? をギルドに伝えたら、職員たちも真面目に見込みのあるルーキーたちに伝えようか検討するって言ってたしね」
冒険者は……Cランクまでであれば、ある程度戦闘力だけで上り詰められる。
魔物を討伐する力。誰かを守れる力。
冒険者の仕事の中にも採集依頼などもあるが、基本的に倒して守れる力があれば、Cランクに到達出来るが……Bランクになると、他の力も必要になってくる。
勿論、Bランクに上がるには実戦的な力も必要ではあるが、それだけで上り詰めようとすれば、並ではない戦闘力が必要になる。
バルガスの場合は……その並ではない戦闘力はクリア出来そうだが、それ以外の評価点があって損にはならない。
「本当に、バルガスが考えた案にしてはまともで、自分の力を存分に活かせるものだったわね」
真正面から戦り合うのを好むバルガスだが、実は気配を殺して姿を隠すといった斥候、暗殺者などの者が得意とする技術もそれなりに出来る。
「おいおいペトラ、俺だってそこまでバカじゃねぇぜ?」
「そうね。ここ最近は本当のバカからちょっとおバカぐらいには成長してるわね」
「いや、だから昔もそこまでバカじゃなかったっての!」
エールをぐいっと呑み干し、空になった容器をテーブルに叩きつけて宣言するバルガスだが、ペトラはそれを鼻で笑って一蹴。
「バカ中のバカよ。魔物の数の方が多いのに、まずはフローラに壁を頼んでって考えずに、とりあえず突っ込んで倒しまくるなんて、バカの発想よ」
「うぐっ!!!」
ペトラの言う通り、確かにバカの発想である。
ただ……冒険者という職業に就く者たちの若い頃は、大半が夢見がちなバカである。
悪いバカさではないが、ただ単純にバカであり……俺なら数の不利なんて覆せるぜ!!!! と意気込んでバルガスの様に突っ込んでしまった者が、酒場にはそれなりに居た。
いきなり拡散弾で流れ弾を食らい、何人かのベテランがエールを吹き出し、食事をのどに詰まらせ……同じやらかしをしたのを覚えているパーティーメンバーが爆笑。
「そんなあんたが、あんなまともな作戦を考えたのを褒めてるんだから、素直に受け取っておきなさい」
「褒めるんなら、もうちょい普通に褒めてほしいぜ」
「普通に褒めてほしいなら、これまで散々バカを重ねてきた自分を恨みなさい」
「ぶふっ!!!」
そもそも口喧嘩ではバルガスがペトラに勝てないというのもあるが、過去を持ち出されては……どう足掻いても勝ち目がない。
バルガスは元々自分の力に自身があり、それ故に少々上から目線な部分はあったが、それは割と些細な問題であり、誰かを虐めるようなことはしないタイプであった。
だが、ペトラの言う通り、そこそこバカであったのは間違いない。
そんな言いたい放題のペトラは、過去に非はないのかと言うと……これが意外とないのだ。
元々ペトラはエルフの里の出身。
人里に興味があって出てきたエルフであり、他の種族から見れば異常と思われる潔癖さや謎の上から目線感などは持ち合わせていなかった。
とはいえ、その分クライレットたちと早い段階で出会ってなければ、善人を装った悪人に騙されてしまう可能性を持っていた。
「まぁまぁ、そんなに落ち込むなよクライレット。本当のバカからちょっとおバカになったということは、本当に以前と比べて成長したってことだよ」
「そ、そう思って良いのか?」
「うん」
良い笑顔でお前は確実に成長しているよと肯定するクライレットだが、ペトラ同様にバカという言葉は変わらず……パーティーを結成した時からバルガスの行動に酔って感じていた苦労を忘れてない証拠が零れていた。
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