兄の物語[37]パワーだけじゃ足りない?
「んじゃ、フローラ! とりあえずそいつの相手頼むわ!!!」
「いきなりだね。まっ、任せなさいよ」
パーティー内でタンクの役割を担っているフローラとしては、バルガスから飛ばされた指示はいつものこと。
バルガスがそれを言うのは珍しいなと思うも、きっちりフォレストリザードのヘイトを稼ぐ。
「ガァアアアアッ!!!!」
「ふぬっ!!!!!!!」
女子らしからぬ気合の入った踏ん張り声を漏らしながら、巨大な顎を先日購入した大盾でジャストガード。
「うぅおおおらあああああっ!!!!!!」
「っ!!!???」
次の瞬間、数十秒ほど木影などを利用して気配を殺していたバルガスがいきなり現れ、フォレストリザードに思いっきりタックルをぶち込ます。
死角からの突撃は下から持ち上げるように行われ……腕力をフル稼働させ、見事フォレストリザードをひっくり返した。
「クライレット!!!!!」
「最高だよ、バルガス」
リザードや同系統の魔物はあまり足が長くない。
亀系の魔物ほど一度ひっくり返ったら元に戻れないというわけではないが、それでも他の四足歩行の魔物と比べれば素早く元通りの体勢には慣れない。
クライレットの鋭い一突きで喉を貫かれ、フォレストリザードはあっけなく絶命。
「…………本当にあっさりと終わったわね」
「どうよペトラ!!! 中々悪くねぇ作戦だろ!!!!」
「そうね……こういう事であなたを褒めるのはちょっと悔しいけど、悪くない作戦だったわ」
ひっくり返してしまえば、後は喉か心臓を突き刺せば一発じゃね? 作戦。
リザードマンの様な二足歩行、加えてそれなりに視野が広い相手には難しい手だが、ハマればこのように短時間でCランクモンスターを丁寧に葬る事が出来る。
「これは……あれかな。冒険者ギルドに伝えた方が良いかもしれないね」
「なんでだ? 何か悪いことでもしたか、俺たち」
「そういう事じゃないよ。単純だけど、本当に良い戦法だ。既に他の冒険者たちも思い付いて実行してるかもしれないけど、それでもギルドが新しい冒険者たちに是非とも教えるべき内容だと思う」
パーティーの戦略は極力外に漏らさない……というのが基本ではあるが、今回バルガスが実行した作戦は決してこの四人でなければ実行出来ないものではない。
加えて、発案したバルガス自身も、自分だけの作戦にしたい……なんて気持ちは一切ない。
「ギルドとしては、少しでもルーキーたちが大型の魔物を上手く狩れる方法を伝えられるのは嬉しいでしょうけど、それでもいくつか注意点はあるはずよ」
「そうだろうね。バルガス、発案者であるバルガスとしては、どこを注意すべきだと思うかな」
「注意すべき点? ん~~~~……まっ、やっぱあれじゃねぇか。結構無防備な状態で突っ込むから、カウンターを食らわねぇように、だな。後はただ突っ込んで突撃するんじゃなくて、裏っ返しにするんだから、下から斜めに上げる感じ? それを上手くやらねぇとだな」
バルガスは感覚派よりではあるが、それなりに冒険者として活動し続け、決して温くない修羅場を何度も潜り抜けてきたためか、上手く言語化出来るようになっていた。
「あれだよね。ぶっちゃけ無防備とはいえ全身全霊でタックルしにくるってのも、魔物にとっては多分脅威だろうから、それを囮にしてって戦法にも使えそうだね」
「魔物がどこまで頭が回るか解らないけど、本能だけで動いてる低ランクのモンスター相手になら、そういう戦法も通じるでしょうね」
「あぁ~~~……でもあれだぜ。今回が初めてだけど、多分それ相応の速さもねぇと厳しいと思うぜ?」
「パワーと速さを兼ね備えたタイプ、か……それでも、ルーキーたちが知っておいて損はない戦法だと思うよ」
この後、冒険者ギルドに戻ってその戦法について伝えるまでに……三体のリザードマンの討伐に成功。
翌日、剥製をつくる職人に見せて、一体はこれが一番良いと高評価を貰い、残り二体はいつも通り解体して売却となった。
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