兄の物語[36]殴るのはオッケー?

「まずはどいつから仕留める?」


「比較的見つけやすいのはリザードマンだと思うのだけど……この前戦ったリザードマンジェネラルが同族を殺してたのよね」


「おぅ、そうだな。ありゃあ……血の濃さ的に、十以上は殺してたんじゃねぇか?」


「……それなら、一旦リザードマンは後回しにした方が良さそうだね」


バルガスの頭はあまり信用してないが、嗅覚は信用しているペトラ。


実際にジェネラルが同族を大量虐殺していたという証拠はないが、リザードマンは後回しにした方が良いという考えはクライレットとフローラも同じだった。


「ペトラの言う通りだな。そうなると、フォレストリザードとグラッシュバッファーを先に見つけて仕留めようか」


「はいはい!! グラッシュバッファーの相手は俺がやりたい!!!」


「バルガス……これは討伐依頼じゃないのよ。それを解っての発言?」


額から二本の角が生えている……と錯覚させる形相でパーティーメンバーを睨むエルフ。


「わ、解ってるって。剝製にするんだろ。あんま傷付けずに倒せば良いってこったろ!」


「……解ってるなら、何故一人で相手をしようという考えに至るのかしら」


「いや、あれだぜ。全部一人でやろうとは思ってないぜ」


「あら、そうなの?」


意外な返答に、自分の早とちりだったと認めるペトラ。

しかし、何故バルガスがグラッシュバッファーの相手をしたいのか……その内容を聞き終えると、眉間に皺を寄せて渋い顔になった。


「………………はぁ~~~~~。あんた、本当にバカね」


バルガスはグラッシュバッファーをあまり傷付けず、確実に仕留める為に……得意の突進攻撃を自分が真正面から受け止めようと考えている。


「ふっふっふ。褒め言葉として受け取っておくぜ!!!」


「……フローラ。こいつを一回ぐらい切り裂いて良いかしら」


「切り裂くのは治すポーションが勿体ないから、殴るだけなら良いかな」


「そうするわ」


「おわっ!!?? いきなり殴りかかるんじゃねぇ!!!」


「自分で蒔いた種でしょ」


魔力を纏ったり身体強化系のスキルこそ使ってないが、素の身体能力をフルに活かした拳が放たれ……バルガスは寸でのところでそれを躱した。


「……バルガス。受け止めてから、どうにかしてグラッシュバッファーのお腹を上にすることは出来るかな」


「は、腹を上にか? そ、そうだな……出来なくは、ないと思うぜ! てか、絶対やるから、こいつを止めてくれ!!!」


一発躱されただけで止まることはなく、溜まったイライラを発散する為、何度も何度も拳を叩き込もうとするペトラ。


「ペトラ、街中では良くないよ」


「っ……そうね、分かったわ。後で絶対に殴るわ」


「…………なぁ、クライレット。俺は反撃しても良いのか?」


「ん~~~~……三分ぐらいは、我慢した方が良いかもね」


「三分か。それぐらいならやってやるぜ!!」


ペトラの拳は鋭く、とても弓と魔法がメインの後衛職とは思えないが……それでも本職はやはり後衛。


エルフと虎の獣人ということもあって、同レベルのでも身体能力には差が現れる。

ペトラは身体強化系のスキルを有しているが、それはバルガスも同じ。


さすがに強化系のスキルを使用した状態のペトラを相手に素の状態で対応するほどのお人好しではない。



指名依頼を受けてから、五時間以上が経過し、夕方…………バルガスが「俺に任せろ!!!」と声高らかに宣言していたグラッシュバッファーよりも先に、森林の亜竜……フォレストリザードと遭遇。


(あっちゃ~~~……まだ具体的な仕留め方は決めてなかったんだけどな~~)


今回失敗したからといって、依頼失敗となる訳ではない。

ただ、ある程度冒険者として活動してきた経験から生まれたプライドが……無意識に失敗したくないな~というプレッシャーを自身に掛けていた。


「なぁ、クライレット! グラッシュバッファーみたいに、腹を上にすれば良いのか?」


「そう、だね……お願いできるかな、バルガス」


「おぅよ、任せてくれ!!!!」

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