兄の物語[2]何度でも考える
「良い部屋が残っていて良かったね」
「そうね……」
「何か不安そうだね、ペトラ」
丁度良い宿に二部屋空きがあり、クライレットたちは二人一部屋二つ確保することに成功。
「……ここはクライレットの弟さん、ゼルートさんが活動していた街でしょう」
「そうだね。この街から冒険者人生をスタートしたみたいだね」
「…………クライレットにとって、これまで以上に比べられる日々が続くのではないかと思って」
クライレットの気持ちは解っている。
これまで、何度もその覚悟を聞いてきた。
しかし……仲間であるペトラがどう感じるかは、話は別。
苦しくない、寧ろそれらの言葉を跳ね返してこそ意味がある……そんな背中を見せてくれるが、同時に辛さも見え隠れしている。
「ん~~~……そう、だね。不安に思う気持ちは解るよ。ただ、あれだよね……もう、慣れなきゃいけないと思うよ」
「フローラ、あんたはもう慣れたの?」
「完全には慣れてないよ。悪気があろうとなかろうと、そういう発言をする連中には怒りがこみ上げる。けどさ……もう、クライレットの覚悟は完全に決まってしまってるんだ」
仲間である自分たちが何を言おうと、彼の心構えは既に決まっている。
これから進む道が茨で覆いつくされていようと、彼は足裏に刺さる痛みを痛みと思わない。
そんな……ある意味異常とも思える精神の強さを見てきた。
「……多分、何が起こってもあの覚悟が崩れることはない。だから……私たちが出来ることは、クライレットが自分の進む道を見失わないように支える事だと思うんだ」
「そう、ね……それなら、もっともっと強くならないといけないわね」
「ふふ、そうだね。どんな言葉が来ようとも、それを意識していれば気にならない筈だよ」
女性陣二人はこれまで何度も何度もその件に関して悩んできた。
これからも悩み続けるだろうが……本当に正しい答えが見つからずとも、彼女たちは決して上を向いて前に進むことを諦めない。
「へぇ~~、結構良いベッドだな」
「丁度二部屋空いてて助かったよ」
「……なぁ、この街に来たってことはよ、やっぱり狙うはBランクの魔物か?」
クライレットたちは……明確な目的を持ってドーウルスに来たわけではない。
次のステップに進むなら、ドーウルスほどの街が適しているのではないか? そういった考えでやって来た。
「まぁ、そうだね。Bランクの魔物を数体……僕達だけで狩る事が出来れば、Bランクへの昇格も見えてくるはずだ」
実際のところ、四人は既にBランクの魔物を討伐した経験はある。
ただ、一度Bランクの魔物を討伐した経験があるからといって、昇格試験を受けるわけではない。
Bランクとは……選ばれし者たちのみが手に入れられるランク。
有事の際、更に上のAランク冒険者が居なければ、確実に現場のリーダーとなる。
「Bランクの魔物を少なくとも数体、か……はっ!!!!! 燃えてくるな!!!!」
この虎人族の男、バルガスは女性陣二人と同じく、悪気があるなし関係無くクライレットとゼルートを比べようとしてくる者たちを嫌う。
だが……クライレット自身がその事を気にしておらず、寧ろ誇りとしている。
そこに関して不安を感じてはいなかった。
「そうだね」
「……もしかして、珍しく心配事でもあんのか?」
「っ、ふふ。珍しく鋭いじゃないか」
「そりゃもう数年、一緒にパーティーを組んで行動してるんだ」
「そうだね……でも、そこまで大した心配事じゃないよ。仮に的中しても……これまで通り、僕たちの力を示せば良いだけだからね」
「…………だっはっは!!! 確かに、そりゃそうだな。これまで変わらず、だな」
察し、賢さはあまりない方ではあるが、訪れた街でかつでゼルートが活動していたことを知っており、さすがのバルガスでもクライレットが何を心配してるのか解った。
(つっても、奇襲は食らいたくねぇからな……きっちり、鼻を研ぎ澄ましておかねぇとな)
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